昭和2年(15陽会)1927年

NO7

《武 陽》
【兵庫縣豫選大會出場之記】
◎對神港商業戰
 昭和2年8月2日(火)甲子園
 △我が軍の好守見るべし大橋の快打赫とし輝く。
 △刀折れ矢盡きて遂に多年の復讐空し無念なり。

 吁!親愛なる我が校友よ、一目一度我が武陽原頭を見よ、燃ゆるが如き炎天下に、我が九勇士の意氣昂く、連日の大苦闘と闘って鋭意實力養成に献身的の努力を盡すあり。
 唯夫れ我が二中の為めにと思へば、愛校の赤き血潮に燃ゆる我がナイン、尊き至誠に生きて技成り、術盡し、既に今は堂々兵を進むべきに到りぬ。

 恰も良し、茲數年連敗の恨みを抱ける神港軍と會しぬ。我れ等彼に勝つべき充分の自身あり。しかれば乃ち我れ等此の會戰に滿腔の滿足を得ぬ。
 型の如きフィルディング、見よ其の充實を、既に戰前早くも的を呑むの慨あり。
 甲子園頭、高原球審のプレーボールの聲高く、午後四時十七分、神港先攻に戰端は開かれる。

第一回。神港=島の三匍、好漢丸山自重に過ぎて低投し、一壘眞鍋止むる能はず、嗚呼此の凡失劈頭我れは不幸なり。坂田四球に續き、三番久保左翼に飛球を送れば太田未だグラウンドに慣れず後退を誤って落球し、島、坂田の生還を許しぬ。久保二壘に走れば何條許すべき丸山二壘に投じて池田の刺すところとなりぬ。高瀬三振、西垣二匍して池田の失に生きしも山崎ファールフライ田中に獲られて止みぬ。彼我凡失に二點を得て欣然たり。
△我が軍一番眞鍋一壘を襲へば彼失して安全たり。丸山立ちて捕手の落球せしとき、眞鍋二盗すれば、倉素早く好投して眞鍋刺さる。丸山三振、大橋二匍すれば坂田の好捕に空し。

第二回。神港=七番濱崎なり、一−二後投匍に倒れ、尾上一壘飛球、倉投匍。
△我が軍田中本壘に憤死し、藤池三匍、弱冠濱崎の好守よし、池田中堅飛球島の手中に在り。

第三回。神港=島第一球をレフト飛球太田の手中に在り、坂田三振、久保投手飛球。
△我が軍振ふ、龜山三振すれど、太田クリンヒットを三遊間に送って出で、小林に待つ所大なりしもあたら三振、一番眞鍋のバットに音あり再び一壘を突けば尾上ハンブルし、太田好走よく三壘を得好機は來る。されど確打の丸山如何にしけん三振して點をなすに到らずして止む。

第四回。神港=高瀬投手フライ、西垣遊撃に心地よき當りを送れど我が小林悠然として退く、山崎貧弱なる投匍。
△我が軍大橋の健棒も投匍に終り、續く田中の左飛、高瀬亂れず、藤池軟打すれば投手背後の安打となり、池田左翼に大飛球を送ってあはや長打と思はれしに惜しや數寸にしてファールとなり三振して止みぬ。

第五回。神港=濱崎投匍、尾上一飛、倉三振に空し。
△我が軍龜山の強匍主将久保亂れず、太田遊飛、小林一壘ファールフライに空し。おゝ今や投手戰酣なり。大橋の快投敵は常に三者凡退を繰り返して振はず、我が軍又西垣の好投に不利なり。

第六回。神港=島三度振れども當らず。坂田當り損ねの球を二壘背後に送ってセーフ、然れども續く久保、高瀬二壘と捕手に飛球を呈して空し。
△我が軍二對零振はず斯くの如くしてはいつの時かよく挽回し得る。奮起すれど、眞鍋のセーフティーバンド成らず、敵の好守に合ひ、丸山二匍に不甲斐なし、返す返すも不甲斐なき我が軍の打棒を見て、今度こそはと快漢大橋決意を眉宇に漲しつゝ悠々ボックスに入る。果然彼の鐵棍に音あり、球は飛ぶ、見よ左翼頭上を遥かに抜く絶好の本壘打、二對一、差は唯一點なり、いざ緊れと守備につく、美事の快打大橋の面目躍如たり。

第七回。神港=西垣強匍を遊撃に再び送れば、小林の守備堅くして抜けず美技なり。山崎投匍、濱崎三匍、我が軍大橋の投球益々辛辣を極め、守備又鐵桶の如し。
△我が軍藤池遊匍、池田、龜山憤振すれども當らず無残三振。

第八回。神港=尾上バントを弄して出でんとすれど成らず、倉一匍、島危ふく左翼ヒットすれど坂田遊匍。
△我が軍太田差は僅か一點、いで一氣に挽回せんと凄愴の面影物凄く好球を待って戞!絶好の左翼安打なり、しかるに何ぞ小林のバントフライになって濱崎手中にした太田又併殺を喫して折角の好打水泡に歸しぬ。眞鍋投匍は既に八回は過ぎぬ。

第九回。神港=久保選球四球に出でしも二盗して田中、小林呼應して鮮かに之を刺す。高瀬遊飛、西垣二飛。
△此の回にして遂に恢復し得ざらんか、吁!それ我れ等が雄圖空しく、復讐亦成らじ。我が戰士の面に凄愴の氣漲り丸山先づボックスに入る。○−二後、三振不死に一壘に安全たり好機到る、挽回此の時なりと續く大橋長棍を引下げてボックスに入れば敵亦用心堅固なり。おゝ快心の當り。吁止みんぬ哉。ヒットと思はれし熱球、必死となりし坂田のランニングキャッチするところとなり丸山無残併殺、田中最後の望みをかけてボックスに入りツースリーまで粘りしも無惨その健棒も空に流れて萬事休焉。

 劈頭の凡失、遂に此の思はざる敗を招く、實に實に無念なり残念なり二對一、遂に敗ると雖その善戰賞すべく、安打、守備等の彼を凌駕する。小林の快技、大橋の大本壘打、太田の二安打に萬丈の氣を吐き以って意を慰むべきか。

 勝敗は兵家の常亦止みなん哉。至誠を盡せば健兒の本懐は達す。嗚呼甲子園頭、武陽熱烈の兒等此處に花と散るとき日漸く落ちて黄昏の悲哀は此處に在り。
二對一武陽軍!敗る。

▽1回戰
 神港商業 200 000 000=2
 神戸二中 000 001 000=1


 〔神 港〕 打得安犠盗三四失
       數點打打壘振球策
 8  島  41101100
 4 坂 田 31102110
 6 久 保 30000010
 7 高 瀬 40000100
 1 西 垣 40000000
 9 山 崎 30000000
 5 濱 崎 30000000
 3 尾 上 30000002
 2  倉  30000102
     計 302203424

 〔二 中〕 打得安犠盗三四失
       數點打打壘振球策
 3 眞 鍋 40000000
 5 丸 山 40000201
 1 大 橋 41100000
 2 田 中 40000300
 8 藤 池 30100000
 4 池 田 30010201
 9 龜 山 30000200
 7 太 田 30200001
 6 小 林 30000100
     計 3114101003

 △本壘打=大橋
 △ベンチコーチ=二中、島津  神港、永井

[投手成績]
西 垣  ファール  024230001=12
     打たれた球 222323131=19
     ストライク 328624627=40
     ボール   224313415=25

大 橋  ファール  212113010=11
     打たれた球 332322342=24
     ストライク 711214304=23
     ボール   1021324427=35

〈朝日新聞〉
【第13回全國野球選手権大會兵庫豫選】

 昭和2年8月2日(火)甲子園
 午後4時15分開戰、5時55分閉戰 (審判)高原(球)郭

▽1回戰
 第一神港 200 000 000=2
 神戸二中 000 001 000=1


 〔神 港〕      〔二 中〕
 中  島  30打數31 一 眞 鍋
 二 坂 田 3安打4 三 丸 山
 遊 久 保 0犠打0 投 大 橋
 左 高 瀬 4三振11 捕 田 中
 投 西 垣 2四死2 中 藤 池
 右 山 崎 3盗壘3 二 池 田
 三 濱 崎 3失策2 右 龜 山
 一 尾 上 0本打1 左 太 田
 捕  倉       遊 小 林

☆第一神港の危勝 金的を射そこねた二中☆

▲第一回。神港=島三匍低投一壘逸球に一擧三壘により坂田四球に出て盗壘し久保の左翼安打に二者生還、久保二壘に刺されて後二中よく守り、入らず。
△二中=眞鍋投匍一壘逸球に生きたが二盗して刺され二者凡死。
▲第二回。兩軍三者凡退。
▲第三回。神港=島の安打のみ。
△二中=一死後太田中前安打し小林三振後眞鍋一匍失に生き、太田一擧三壘に進んだが丸山三振。
▲第四回。神港=三者凡退し、
△二中=二死後藤池の一安打のみ。
▲第五回。兩軍無為。
▲第六回。神港=坂田の一安打。
△二中=二死後大橋左翼頭上をはるかに越す大きな本壘打を戞飛ばし觀衆總立ちとなって場騒然。
▲第七回。神港=二中の投手ますます冴えを見せ打者振はず。
△二中=三者凡退、兩軍非常な緊張味を見せながら優勝戰の觀がある。
▲第八回。神港=二死後島左前安打して盗壘し坂田遊撃を強くゴロに衝いたが遊撃よく捕へて入らず。
△二中=太田三越安打に出でて好機至ると見えたが小林のバント飛球となって惜しくも併殺され遂に得點なし。
▲第九回。神港=久保四球、高瀬遊飛し久保二盗せんとして刺され西垣二匍。
△二中=最後の攻撃に入る、觀衆一球毎に騒然とするうち丸山三振したが捕手逸して出で大橋二匍してダブルプレーを喫し田中三振して二中軍惜敗す。