大正4年(3陽会)1915年

NO3

《武陽9号》大正4年12月発行
◎福田先生送別記念野球試合
 大正四年七月十七日、本校野球部主幹として日々熱心に本部の進歩發展に盡力されし福田先生送別の為め午前九時三十分より今井氏を審判官として記念野球試合を擧行す。

◎對慶應ナニワ倶楽部
 大正4年7月
30日(金)東遊園地
 慶應ナニワ倶 150 000 003 20=
11
   神戸二中 001 003 005 20=
11
 (延長11回) 

       打安犠三四補刺得
 〔二中軍〕 撃全牲  殺殺
       數打球振球數數點
 6 田 中 40200340
 9 藤 原 40001011
 2 橋 本 50020280

 57
 兒 島 50000102
 1 今 村 40001
1402
 5 上 村 10100210
 8 箸 倉 31101001
 4 岸 本 40021301
 3 村 田 420110
15
 5 松 尾 10002012
   合計  
353457253011 

 〔ナニワ軍〕

 16
 沼 田 30003611
 8 高 野 20103023

 613
高 濱 32102462
 31
 辰 馬 40210491
 7 高濱政 60010020
 4 河 原 51021441
 9 長谷川 61000001
 5 神 原 51011131
 2 明 石 50010361
   合計 
 3954610223311 

 大正四年七月三十日、我軍は帰省中の慶應ナニワ倶楽部に挑戰状を送り東遊園地に於て相戰ふ。これより前我が選手は夏季休暇に入るや直ちに合宿し、終日猛烈なる練習を行ひ加ふるに一高の選手谷本氏のコーチを受けてより一層の進歩をなす。敵は斯界の猛者連にして關西の各學校と戰ひて全勝し其の勢ひ侮るべからず。
 午後四時を過ぐる事十分、元町倶楽部の藤田氏を審判官として敵の先攻に戰の幕は開かれぬ。

〈朝日新聞〉
【第1回全国野球選手権大会兵庫豫選】
  
大正4年8月4日(水)關西學院 午前9時
30分開始(審判)菊名(球)井上(壘)▽2回戰
 神戸二中 027
 御影師範 000
(降雨のため中止)
 

▲第一回は二中劈頭田中ファウルを捕手に得られて退き藤原、兒島四球を利して進みしも今村の左翼グランダーに藤原先づ三壘にフォースされ橋本の二壘ゴロは又今村を二壘に葬り御影代って攻め陸井三振、福田、中尾共に凡打に終る。

▲第二回は二中の上村遊撃を襲ひ其暴投に直に二壘に及び箸倉四球に續き岸本の遊撃ゴロは上村を三壘に倒れしめしが村田輕く遊撃に緩ゴロを送り如何にしけん福田三壘に復もや暴投して箸倉を入壘せしめ最初の一點を擧げしめしに悪因して田中遊撃ゴロに生き藤原の四球に二壘滿壘となるの際捕手の逸球は更に村田を入れ二中二點を獲得す、

 御影代って攻め快漢鈴木憤然として長棍を振へば熱球は鳴りを生じて遠く左翼に飛ぶよと見れば輕快兒島猿臂を延ばして發止と受止め観衆の拍手場を揺がして起る。
 續いて石田、鴨川共に四球を利し好機漸く萌せしも岩崎三振して二死となり石田離壘して刺さる。

▲第三回は曇りに重き空模様は弗々雨を落し試合漸く凄味を加ふ、二中今村三壘ゴロに生き橋本憤慨子中堅にヒットを放ち今村を三壘に送り上村のバントを三壘手一壘に暴投して橋本、上村二壘三壘に據り箸倉の三振後を受けたる岸本の左翼にフライを翼手逸して橋本本壘に突入し又一點を加へ林田の投手ゴロ上村を三壘にフォースして二死となりしが田中の遊撃ゴロに再び滿壘となり藤原の四球岸本を押出し尚走者壘に滿つ時に二中の強打者兒島投手の直球を狙って中堅左翼間に絶好の二壘打を放ち御影軍の混亂の裡に三者踵を次いで入壘今村亦三壘越の安打を飛ばして兒島を入れ得點早くも九を數ふ、

 御影代り樋口四球に出で其盗壘を刺さんとせる捕手の悪球を二壘手逸して却て三壘を奪ひしも後續悉く三振して止む、斯くて第四回に入らんとせしも雨漸く烈しく最早之以上試合を繼續し能はざるを以て結局試合を延期し更に五日午前九時より第二日一勝者戰を新たにする事とせり。

〔兵庫豫選=再試合〕
《武陽》
◎對御影師範學校野球仕合
 八月六日、大阪朝日新聞社神戸通信部主催の元に兵庫縣野球大會は關西學院グラウンドに開かれたり。夏季休暇以来一高谷本氏のコーチを受けたる我が九勇士は本校の一部に合宿して鍛へたる腕前を發揮せんものと腕を鳴らして戰場へ向ひける。
 午前九時三十分我軍先攻に仕合は開始されぬ。いでや左に勇士が奮闘の跡を記さん。

 第一回。我が第一打者今村観衆の拍手の裡にボックスに現れ目にもの見せん勢なりしも如何せし空しく三振を喫して退き續く藤原グランダーを遊撃に呈して倒れ兒島二壘を襲ひしも二壘手よくつかみて無為、敵代り攻む。

 第一打者陸井を投手グランダーに屠り福田二壘を突きてその失に生きしも仲尾フライを二壘に呈す、壘手併殺せんと球を落し二壘に投じて福田をフォースアウトせしも仲尾一壘に次いで仲尾進壘を急ぎて二壘上の露と消ゆ。

 第二回。我軍田中ファウルを捕手に得られ、橋本中堅に安打して出でしも上村の遊撃強襲に二壘にフォースアウトされ箸倉凡打して敵攻む。鈴木中堅安打に出で次ぎて進壘して二壘により大いに成すあらんとせしも鴨川本壘に倒れ其の間三壘を盗壘せんとして捕手よりの投球に刺され石田の恩澤に浴して出でしも二壘に刺されて止む。

 第三回。我軍一死の後村田遊撃を襲ひ其の暴投に一擧二壘を得投手の牽制球を壘手の失せし間に三壘を陥る、今村四球に出で續いて二壘に進み一死にして走者は二三壘に據る。續く藤原衆望を負ひて立ち見る見る一壘後方に安打して村田悠々と生還し先づ光榮ある最初の一點を収む。

 次ぎて立ちしは兒島なり投手を攻撃して失せし其の虚に今村、藤原二騎轡を並べて牙城に入る。田中其後を受けて立ち多年の練磨長棍一打せば戞然として音あり見よ
!!球は左翼中堅間を貫きてさしも廣きグラウンドも彼の前には尚狭く垣を越えぬ。

 見事なるフェンスオーバー。堂々たる本壘打なり。敵も味方も大喝采の内に兒島、田中生還す。橋本遊撃を突きてならず、上村三振を喫す。敵憤然挽回せんとせしも岩崎はフライを右翼に呈して名をなさしめ、樋口四球を得しも上月Pゴロに陸井二壘ゴロに無為。

 第四回。兩軍無為。

 第五回。今村四球に出で二壘を奪ひ藤原二壘を襲ひて其の失に生き此間今村三壘に進み次いで藤原も二壘に進み大いになすあらんとせしも兒島のPゴロに今村を三壘にフォースアウトし藤原も離壘して二三壘間に挟殺され同時に兒島二壘を奪ひしが田中の三壘ゴロは三壘に進まんとする兒島をアウトとす。
 敵石田遊撃にグランダーを呈して退き岩崎フライを遊撃手に獲られて樋口三振に止む。

 第六回。橋本三振を喫し上村三壘ゴロに二死となる箸倉四球に出で岸本遊撃の失に生き村田衆望を負ひて立ちしも右翼フライに無為。上月フライを投手に陸井は一壘手にゴロを福田はライナーを遊撃手に得られて為すなし。

 第七回。今村遊撃を突いてならず藤原中堅に安打せしも兒島左翼にフライを呈して退き藤原二壘盗壘を企てゝ倒る。仲尾Pゴロに死し鈴木フライを右翼に送りて名をなさしめ鴨川四球に出でしも投手の術中に陥り一二壘間に倒る。

 第八回。我軍田中猛打せんとせしも當らず遊撃にフライを送りて止み橋本のPゴロを投手一壘に投ぜば壘手之を失し上村三壘ゴロに生きやがて橋本三壘を占むるや箸倉左翼に犠牲球を送りて倒れしも橋本生還す。續く岸本ファウルフライを三壘に得られて止む。敵軍挽回に勉め石田四球を得て出でしも岩崎Pゴロに樋口も亦ゴロに上月三振して無為。

 第九回。ラストインニングに入るや村田中堅右翼間に絶好の二壘打を放って出でしも今村遊撃ゴロに退き藤原、兒島共に本壘上の露と消ゆ。敵軍最後の奮闘をなさんと勉めたれど勝敗の大勢は如何ともし難く陸井は辛くも遊撃三壘間を抜く安打に出でしも福田は左翼を襲ひて倒れ仲尾は中堅に球を送りて陸井共に併殺に終る。
 時に十一時三十分。我は六對零にて大勝しぬ。

▽2回戰
 神戸二中 005 000 010=6
 御影師範 000 000 000=0
 

       打安三四補刺得
 〔二中軍〕 撃
       數打振球殺殺點
 6 今 村 2012251
 9 藤 原 4210021
 7 兒 島 4010011
 1 田 中 4100921
 2 橋 本 3110341
 5 上 村 3010010
 8 箸 倉 3001110
 4 岸 本 2020300
 3 村 田 4100191
   合計  
295731925 

 〔御影軍〕
 5 陸 井 4100130
 6 福 田 4000520
 7 仲 尾 3001020
 3 鈴 木 3100090
 2 鴨 川 0021280
 9 石 田 1002010
 8 岸 崎 3000000
 1 樋 口 1011310
 4 上 月 2010910
   合計  
212452027 

〈朝日新聞〉
大正4年8月6日(金)關西學院 (審判)菊名(球)井上(壘)
▽2回戰
 神戸二中 005 000 010=6
 御影師範 000 000 000=0
 

 〔二 中〕   〔御影師〕
 6 今 村  5 陸 井
 9 藤 原  6 福 田
 7 兒 島  7 中 尾
 1 田 中  3 鈴 木
 2 橋 本  2 鴨 川
 5 上 村  9 石 田
 8 箸 倉  8 岩 崎
 4 岸 本  4 樋 口
 3 村 田  1 上 月

  打安三四   打安三四
  數打振球   數打振球

  35
473   23145

 前日に引續き一勝者戰を開く、當日は一天怪しく曇りて今にも雨を降らさんとし風は前日にも劣らず砂を捲いて吹き立てしも観衆は定刻前より犇々(ひしひし)と詰めかけ來り北側観覧臺は人を以て埋まり午前九時を告ぐるや二中應援軍は各手に手にカーキ色の應援旗をかざして隊伍粛々指定の席に着き戰期を待つ、軈て九時三十分兩軍選手は菊名、井上兩氏の審判の下に二中先攻して試合の火蓋は切って放たれたり

▲雨後の第二日試合
 二日間を雨に延期せし兵庫縣野球大會第二日戰は空朗かに微風涼しき六日午前九時半より豫定の如く御影師範對二中試合を以て開始されたり前々日以来鬱勃せる鋭氣を抑へて髀肉の嘆に堪へざりし兩軍は此快晴を見て意氣更に倍加し二中應援隊の一斎拍手紀律正しく場に鳴って観衆の血は座ろに沸き立つを覺ゆ、軈て時到りて菊名氏球審井上氏壘審を以てプレーボールを宣せられ二中先攻す。
 

▲第一回 二中今村先づ三振し藤原遊撃兒島二壘にゴロを送って三者一瞬にして仆れ御影代って陸井投手ゴロに仆れ福田の内野ヒットに出でしも中尾の二壘前の小飛球に福田を二壘に殺し中尾亦二壘をスチールせんとしてフォースさる。

▲第二回 二中田中ファウルを捕手に得られて退き橋本中堅安打に出で上村の遊撃ゴロに橋本を二壘にフォースし箸倉投手グラウンダーに仆れて為すなし御影代って攻むるや鈴木快漢劈頭中堅に安打して出で巧に二壘を盗み鴨川三振せしも石田四球に出で一死にして好機を生ぜしも鈴木無謀にして三壘にフォースされ石田進壘を急いで亦二壘に刺さる。

▲第三回 二中軍のラッキーセブンは一死の後に突發し來れり始め村田遊撃にゴロを送って出で今村四球に二壘に及び藤原の一壘ゴロのミスに村田入壘兒島投手グラウンダーを放ち投手の悪球に今村、藤原二者生還續いて出でたる猛打者田中戞然左翼にロングヒットを飛ばして球は運動場のフェンスを越えて本壘打となり一舉五點を占め應援團の熱狂的歡喜の聲は場を揺るがす許りなり御影代って一死の後樋口四球に出で上月の犠牲打に送られ更に壘進せしも陸井二壘ゴロに仆れて點を為すに至らず。

▲第四回 二中凡球し御影一死の後中尾四球に出で鈴木の二壘飛球を二壘手故意に落して併殺を試みんとして中尾を二壘に刺せしのみに止まり鈴木の二壘スチール成効せしも後援續かず。

▲第五回 二中今村四球に出で藤原二壘を襲って其失に生き又もや好機を生ぜしめしも兒島投手ゴロに今村を三壘にフォースし藤原二三壘間に挟殺され田中の三壘ゴロは復兒島を壘手の為に觸殺せしむ御影代って無為。

▲第六回 橋本憤慨子三振に憤慨して退き上村三壘にゴロを送って仆れ箸倉四球に出でゝ二壘を盗み岸本の遊撃ゴロの失に三壘に進みしも村田の右翼大飛球に無為にして御影と代り是亦凡打に終る。

▲第七回 二中今村を先頭に攻めたてしも御影の守備堅うして抜けず二中も亦堅壘御影に隙を與へず。

▲第八回 二中一死の後橋本、上村投手ゴロに出で遊撃一壘暴投に二壘三壘に進み今村の左翼飛球に橋本本壘に殺到し惜しき處に捕手逸球して更に一點を加へしむ御影軍石田を四球に出だし岩崎、樋口の犠牲打に三壘に送りしも上月三振して好機を逸す。

▲愈々最後の一戰に入る二中の林田中堅に絶好なる二壘打を戞飛し今村二壘ゴロに仆れしも村田を三壘に送り藤原三振し強打者兒島ボックスに立ち二振三球の一球能く兒島を葬り得たる上月の健腕は實に前日の比に非ず斯くして御影軍最後の打撃となる今にして入壘せずは為めにシャットアウトの汚辱を受くと力戰奮闘全力を擧げて攻めたてしも遂に為すなく結局六對零を以て二中の勝となりしは蓋し順當なるべきも當日御影の投手上月終始能く戰ひ全軍の守備亦堅實なりしも打撃の不振は惜しくも此の敗因をなすに至れり。