大正10年(9陽会)1921年

NO3

《武 陽》
◎對關西學院普通部
 大正10年6月25日(土)關西學院
 甲陽、神高商に連敗の憂き目を見たる我軍は、其後鋭意猛練習を積み、この日再び關普と開戰する事とせり。
 我軍よく攻め、四回に一點、六回に二點、七回に六點を得たるに對し、敵軍も亦好く戰ひ、二回に四點、八回に二點を収め、結局九對六のスコーアにて我軍再び凱旋せり。

  神戸二中 000 102 600=9
 關學普通部 040 000 020=6


 〔本校〕   〔關普〕
 3 梅 田  5 成 瀬
 9 金 澤  7 今 北
 2 将 積  6 田 倉
 6 木 谷  8  辻
 8 田 中  12 沼 田
 5 難 波  3 河 原
 7 宇 野  9 細 川
 4 稻 田  4 綱 島
 1 井 垣  21 松 山

《武 陽》
◎對瀧川中學戰
 大正10年6月28日(火)瀧川中學
審判、鎌野(球)餉手(壘)兩氏。
 我軍先攻。第一回二點を先取すれば、敵軍三點を勝を得て奮闘目覺まかしりしが、我軍奮然立って攻むれば其得點二回五回に各一點、六回に三點、七回に一點、九回に三點を収めたるに對し、敵軍七回に漸く一點を得しのみ。遂に十一對四のスコーアにて彼を破りぬ。

 神戸二中 210 013 103=11
 瀧川中學 300 000 100=4


 〔本校〕   〔瀧中〕
 6 木 谷  4 加 藤
 13 金 澤  9 野 間
 2 将 積  1 宮 倉
 31 井 垣  6 石 井
 8 田 中  5 木 谷
 7 宇 野  7 手 島
 4 楠 見  8 久 野
 9 稻 田  3 橋 本
 3 梅 田  2 松 野
 5 難 波

《武 陽》
◎對ダイヤモンド倶楽部戰
 大正10年7月3日(日)神戸二中
 甲陽、神港等に善戰して意氣軒昂たるダ軍第二選手と本校々庭にて戰火を交ゆ。我軍よく打ち、九對一、完膚なき迄に彼を粉碎せり。また快なる哉。
 我軍先攻。第一回に一點、二回に二點、三、四回に各一點宛、五回に四點を収め、五回以後早川投手となるに及んで漸く封ぜられしも、敵軍僅かに遊失に出でたる西澤が盗壘と後援とによりて漸く一點を入れて辛うじて零敗を免れたるのみ。

 〔本校〕   〔ダ軍〕
 3 梅 田  61 早 川
 7 金 澤  5 福 田
 2 将 積  2 菅 井
 6 木 谷  16 西 澤
 8 宇 野  3 辰 馬
 5 難 波  8  森
 4 楠 見  4 今 井
 9 稻 田  9 石 場
 1 井 垣  7 中 井

《武 陽》
【第七回兵庫縣野球大會】

 緑濃き東遊園地の野に好敵手白鷺城下の雄姫路中學と取組む。炎天下一旬の猛練習に鍛えに鍛えし我部選手の鐵腕の冴えを示すは實にこれ此の時。午後一時開戰。審判。河瀬、木村兩高商選手。

我軍先攻。
第一回、梅田先づ遊撃を衝いて佐伯の妙技に刺されしも、金澤、井澤、木谷それぞれ氷室の強球を潜って四死球に出づ。次打者宇野輕く一振すれば球遥かに右翼をオーバーして金澤、井垣悠々牙城を陥いれ、宇野二壘に達す。

 将積ついで三壘を破れば、楠見も亦右中間に安打し、木谷、宇野、将積踵を連ねて生還す。楠見一擧二壘に到らんとして中堅、投手、二壘の球に倒れ難波三振して我軍の猛襲止みしも、入壘者五を算し、先づ敵の度膽を抜く。
▲姫中焦って攻む。佐伯劈頭三壘失に出で、小林の貧弱なるバント僥倖にも内野安打となり、一二壘共にセイフとなる。續く伊藤、氷室何れも遊撃を襲ひ、却って木谷に名を成さしめしが、其の間佐伯生還す。原の三壘打難波再び失して小林また生還す。
されど原の二盗奪功を奏せず。

第二回、兩軍ノーラン。

第三回、木谷、宇野共に四球に出で、将積の遊匍に宇野封殺されしも、木谷進んで三壘に達す。将積二壘に走るや、木谷捕手に謀られて死せしも、走者捕手の悪投に三壘を得、楠見四球に出でし後、難波よく中堅に安打して将積生還す。
然るに田中主将の腑甲斐なきPゴロに徒死して可惜二者スタンディング。
▲敵軍氷室遊撃安打ありしのみ。

第四回、梅田四球を選びしも投手の牽制に倒れ、金澤遊匍低投に出でしが、井垣の遊匍に詰殺さる。續く木谷、宇野又も四球に出でゝ滿壘となりしが、将積衆望に反きて飛球を捧げて好機空しく去る。
▲敵軍に飜弄せられて走者なし。

第五回、我軍二走者を出せしも點を成すに至らず。
▲敵軍の猛襲一時に起り、打順一巡、一擧六點を數へ形勢逆轉す。即ち品川内野安打し井垣の牽制悪球に二壘を得、佐伯亦内野安打す。このピンチ來に我軍各相警め小林のみは遊飛に斃す事を得しも、續く伊藤に安打せしぬ。

 田中捕球後逡巡し、後本壘に暴投して品川を生還せしむ。堅打手氷室左翼の頭上を掠むる直三壘打を放ちたれば、佐伯、伊藤相踵いて易々生還す。原またバントに備へし木谷の右を破って出で、氷室も亦本壘に入る。我軍の守備極度に混亂す。續く北條、瀬戸に四球を得られて更に滿壘となり、福澤遊匍に死する間に原また入壘。

 打者一巡して品川立ちて三匍に出づ。一壘手梅田何事ぞ、難波の好投をファンブルして北條ために生還し、敵に僥倖の一點を與へぬ。佐伯一匍に死して敵の強襲全く已みしも、姫中却って二點を勝ち越し、敵軍狂喜す。

第六回、我軍走者ありしも入らず。
▲井垣よく締って、小林を三振に、伊藤を左飛に打取り、へヴイバッター氷室には左翼安打を許しゝも、續く原を中堅飛球に終らしむ。

第七回、ラッキーセブンは來りぬ。されど我軍意氣沮喪せしか打撃更に振はず。
▲敵軍も亦北條の安打あるのみ。

第八回、我軍無為。
▲敵一死後小林思はざる三壘打を左中間に放って後援を待つ。伊藤Pゴロに倒れて、後氷室躍って出で、井垣入念の第一球を戞!!!と打つ。物凄きライナーはあはや三遊間を突破するかに見へしに鐡壁の遊撃手木谷發止と受けて美事に之を刺す。

第九回、戰は終はらんとす。緊褌一番せざるべからず。宇野空しく右飛に倒れしも、将積遊匍高投に生き、楠見四球に續くや、難波再び二壘に安打して走者各壘に滿つ。好機來を喜びて片唾を飲んで戰績を豫望し居たるに、次打手田中ボックスに入りし時、咄!!!将積三壘手に欺かれて惨死す。

 既に二死を數ふ。是に於て楠見猛然三壘を強襲してスライディングし白塵濛々たるの裡、壘審の右手は高く揚りぬ。萬事休矣。あゝ己んぬるかな。戰績八A對六。我軍脆くも敗れぬ。
 我軍の呼號ハタと止み、敵の陣中凱歌喧し。吾等唯切歯して涙を飲むのみ。げに敗戰の跡や惨又惨。

大正10年7月30日(土)東遊園地
▽1回戰
 神戸二中 501 000 000=6
 姫路中學 200 060 00X=8


 〔本 校〕 打得安盗三四失
       數點打壘振球策
 3 梅 田 3000021
 9 金 澤 2102020
 1 井 垣 3000111
 6 木 谷 1101140
 7 宇 野 3110020
 2 将 積 5212000
 4 楠 見 3011220
 5 難 波 5121102
 8 田 中 4010001
    合計 296675135

 〔姫 中 〕打得安盗三四失
       數點打壘振球策
 6 佐 伯 5210003
 2 小 林 5120101
 8 伊 藤 5110000
 1 氷 室 5130000
 3  原  4110000
 7 北 條 3110010
 9 瀬 戸 2000220
 4 福 澤 4000101
 5 品 川 4120000
    合計 378110435

 △残壘=本校11、姫中8 △逸球=小林

〈朝日新聞〉
【第7回全國野球選手権大會兵庫豫選】
 大正10年7月31日(日)東遊園地
 午後零時50分開始 4時閉戰 (審判)球審・河瀬 壘審・木村

▽1回戰
 神戸二中 501 000 000=6
 姫路中學 200 060 00X=8


 〔神二中〕       〔姫路中〕
 一 梅 田       遊 佐 伯
 右 金 澤       捕 小 林
 投 井 垣       中 伊 藤
 遊 木 谷       投 氷 室
 左 宇 野       一  原 
 捕 将 積       左 北 條
 二 楠 見       右 瀬 戸
 三 難 波       二 福 澤
 中 田 中       三 品 川

 失四三安打       失四三安打
 策球振打數       策球振打數

 133630        5341037

▲第一回。二中一死にして金澤、井垣、木谷の三者連續四死球を利して劈頭から滿壘の好機を孕み宇野の右翼長打二壘打となった。金澤、井垣生還。将積の三壘安打は木谷を入れ楠見亦直球を狙って長棍一揮二壘左を抜き壘上の走者を一掃して得點五の大を獲得した。姫中代って佐伯三壘を過らしめ小林絶好の内野安打に續き伊藤遊匍に氷室亦之に倣って佐伯を入れ原三匍失に小林を入れ息もつがせず攻め立てゝ興趣津々として盡きず。(二中五、姫中二)

▲第二回。兩軍守砦を固めて隙を作らず、只姫中の田中左安打を飛ばせしのみ。(兩軍零)

▲第三回。二中木谷、宇野の二者共に四球に利して刺されたが、将積の遊匍野選で宇野二壘に刺されが、捕手の牽制見事に功を奏して木谷を本壘に憤死せしめたが難波の投左安打に将積生還、二中復一點を奪ふ。姫中氷室の快打があった計り。(二中一、姫中零)

▲第四回。二中二死後滿壘のチャンスに際會したが後續中飛して點を示さず、姫中凡打に終る。

▲第五回。二中無為に退くや姫中の猛撃潮の如く殺到し品川先づ遊匍の高投に生きると佐伯遊前内野に安打して續き小林遊飛に斃れたが伊藤中堅に安打し氷室が揮った長棍戞と鳴って長打左翼の頭上を掠めて飛ぶの三壘打となり佐伯、伊藤踵を接して生還、

 氷室又原の安打に入壘茲に得點四を加へて尚一死、而も北條、瀬戸は四球を利しての滿壘の好機である。斯くして福澤の遊匍に原生還、品川の遊匍一失、北條生還六點を占めてゲーム逆轉、却って二轉の勝越しとなり姫中應援團雀躍す。
(二中零、姫中六)

▲第六回。兩軍接戰火を吐いて共に戰壁の布陣を誇る。(兩軍零)
▲第七回。兩軍共に得ず、只姫中北條安打を放ったのみ。
▲第八回。二中重荷を負うて焦慮遂に日頃の猛打を見せず却って姫中小林に長打を許した。(兩軍零)

▲第九回。斯くて試合は最後のインニングに入り二中奮然として恢復に努め一死滿壘となったが将積三壘手のトリックに徒死し楠見三壘スティールに刺されて萬事休し凱歌は鷺城軍に高唱されたが新進始めて古豪を刺した姫中の本懐は去る事乍ら敗れた二中の心裡を酌めば又萬斛の涙がある。