大正10年(9陽会)1921年

NO6

《武 陽》
【神戸二中優勝す】

◎痛快淋漓神港軍を潰走せしむ 大正10年10月2日(日)東遊園地
 この日我軍は關普及び甲陽の二強豪を破れる神港軍と東遊園地に相見え、茲に扇港の覇を決せんとす。

 午後二時兩軍選手の鮮かなるシイトノックの始まる頃幾多の長旗を飜し十餘の陣太鼓を鼕々と打鳴らし我應援團先づ威風堂々入場すれば神港軍應援團も續いて同じく現はれ三壘に長蛇の陣を張りぬ。
 二時二十分近藤(球)山崎(壘)兩氏審判の下に戰は開かれぬ。扇港の覇は果して何れが掌握するか。

第一回。敵軍先攻。劈頭町田、木谷の剛球に三振を喫し、秋田左打者四球を選ぶ。吉岡の三匍を難波捕球、走る秋田を二壘に刺さんとて暴投し、却って二者を生還せしも、永井の猛匍を稻田よく止めて吉岡を二壘に刺し、三谷の遊匍に乗ずる餘地なからしむ。

△我軍将積遊撃を攻めて惜しき戰死を遂げしが、續く楠見、木谷よく四球を選びて後援を待てば、強打者宇野心得たりと右中間に大飛球を戞飛ばして二壘打となり、楠見易々生還。難波續いて熱球を二壘に匍はせば木谷、宇野一氣に本壘を衝く。惜らくは後援續かず、難波残壘。

第二回。水谷の鐡腕益々冴え生駒、丸泉を三振せしめ、町田(弟)をフライに屠る。
△我軍の猛打依然たり。
 一死後田中遊匍低投に生く。猛打者将積の一撃に球は中堅の野に深く飛入りて堂々三壘打を演じ、田中悠々と本壘に入る。楠見の二匍敵失に生き将積入壘す。木谷の輕き遊撃打内野安打となり、楠見二壘に到る。宇野の一匍に走者三壘に達す。難波の粘る裡、永井暴球して楠見生還。木谷三壘に據る。難波終に中堅安打して木谷を本壘に入る。難波二壘を奪はんとして成らず、我軍得點積んで七を算す。

第三回。一死後町田四球を得、二盗に成功し、秋田の一匍に三壘に達す。次打者、主将吉岡ボックスに立てば敵の應援團喧々囂々たり。戞然打って中堅を越えんとせしも、田中背進大に努め引掴む。
△永井投手の肩慣れて投球凄く、我軍三者三振にあふ。

第四回。永井、生駒安打せしも後繼者無し。
△我軍更に振はず。

第五回。敵軍無為。
△吾軍一死後宇野三失に出で直ちに二盗、難波の遊匍に三壘に及びしも梅田の三振に止み七對零の侭第六回に入る。

第六回。敵の逆襲猛烈にして、此回一擧六點を恢復せらる。初め吉岡四球を利し暴球に進壘。續く永井右翼に安打し(代走内海)吉岡生還。三谷左翼に安打せるに宇野意外の高球を投じて内海も入壘す、生駒、丸泉四球を奪いて無死滿壘の危機に會ふ。俄然八番町田中堅に痛打して三谷、生駒相ついで生還し、丸泉二壘に達す。

 内海左飛に倒れし後町田遊撃に打てば、楠見一壘にこれを刺す。然るに二壘に茫然佇立し居たる丸泉周章して三壘に突進するに梅田の投球急ぎしも危く生く。續く秋田の強匍を梅田失して丸泉及び町田生還。吉岡の三匍球に敵襲漸く止む。
△我軍未だ機熟せず三者凡退。

第七回。永井先づ右翼に二壘打して出で(吉岡代走)投手の牽制暴投に三壘に達す。三谷二飛に退きし後、生駒の凡匍を稻田ミスして吉岡生還。兩軍遂に同點となる。丸泉遊撃に飛球して死せる後、町田又も右翼に安打し、その失に走者三二壘を得しも内海の邪球を難波堅くクラヴに納めて危機漸く去る。
△我軍打順好かりしも将積遊匍、楠見、木谷共に三振し、意氣揚がらず。

第八回。敵軍も好打順に際會す。町田バントの窮策に死して後、秋田中堅に直安打して出づ。吉岡ついで三壘を誤らせて後を追ふや猛打者永井四度右翼を強襲す。此間秋田躍然本壘に突入す。三谷の貧弱なるバントを将積捕球せるも、走者自重して動かず、遂に野手選擇となって滿壘のピンチ又もや我軍を襲ひぬ。
生駒の弄せしバント内野安打となり、吉岡生還、猶滿壘を持續せしも、丸泉の投匍永井と共に併殺の禍を醸せり。されど敵軍すでに二點を勝ち越して意氣天を衝く。

△吾軍好機をとらふ。先鋒宇野三匍一失に出で快走二壘を奪へば難波ついで二壘を過らして出づ、苛てる吉岡の三壘牽制球高きに失し、宇野脱兎の如く本壘に突入して一點を恢復す。梅田はバントの犠打に難波を入壘せしむ。稻田の三振に二死を數へしが、宇麼谷投手を強襲すれば永井之を失し、遊撃内海よく止めしも一壘への低投し走者生く。

 田中右翼に安打して兩騎士三二壘に進めば、一番将積、好機來を喜ぶ應援に送られてボックスに立つ。永井懸命の投球既に二振を算せしも、好打手何ぞ怯まん。見よ第五球の痛打にボールの二壘を破って中堅の野に轉々するを。機に乗じて宇麼谷、田中躍然として本壘に殺到し、楠見、木谷四球に續けば、宇野猶も三壘に猛匍して将積、楠見を本壘に送り、勝敗終に茲に決す。難波の物凄きライナー、可惜右翼の正面を衝いて効を奏せず。

第九回。敵軍奮然立つ。先鋒町田遊匍、内海三匍に退きし後、一番町田の匍球を楠見一壘に暴投してむざむざ二壘を與ふ。重任を負ひし秋田又も遊撃を襲ひしかば楠見心得たりと一壘に好投し、戰火茲に全く止む。

 戰績十三A對九、吾軍終に優勝し扇港の覇者となる。
 蟄龍終に出でゝ壮圖茲に成る。見よや千辛萬苦の結晶を、味へよ武陽スピリットの
 發露を!!!

▽優勝戰
 神港商業 000 006 120=9
 神戸二中 340 000 06X=13


 〔本 校〕 打得安犠盗三四刺捕失
       數點打打壘振球殺殺策
 2 将 積 5220010710
 6 楠 見 3300012241
 1 木 谷 3210021140
 7 宇 野 5220200101
 5 難 波 5120100222
 3 梅 田 30010201102
 4 稻 田 4000020122
 9 宇麼谷 4100030101
 8 田 中 4210120100
     計 361381413327139

 〔神 港〕 打得安犠盗三四刺捕失
       數點打打壘振球殺殺策
 8 町田兄 5000221100
 3 秋 田 5110001701
 2 吉 岡 43000011331
 1 永 井 5040000110
 5 三 谷 5110010011
 7 生 駒 4120111000
 9 丸 泉 4100011100
 4 町田弟 5120000002
 6 内 海 5100110132
     計 4291004652487

 △三壘打=将積 △二壘打=宇野、永井 △暴投=木谷1、永井1
 △残壘=本校4、神港11

〈神戸又新日報〉
大正10年10月2日(日)東遊園地
午後2時20分開始 5時閉戰 審判(球)近藤(壘)山崎
▽優勝戰
 (安打)000 104 210=8
 (敵失)200 103 121=10
 神港商業 000 006 120=9
 神戸二中 340 000 06X=13

 (敵失)030 010 03 =7
 (安打)220 000 04 =8

       打安犠盗三四刺補過         打安犠盗三四刺補過
〔神戸二中〕            〔神港商業〕
       數打打壘振死殺殺失         數打打壘振死殺殺失
 捕 将 積 520010703   中 町 田 500121200
 遊 楠 見 300012242   一 秋 田 510001701
 投 木 谷 300022130   捕 吉 岡 4000011431
 左 宇 野 530200100   投 永 井 530200112
 三 難 波 520000222   三 三 谷 510010001
 一 梅 田 400020101   左 生 駒 410011000
 二 稻 田 400021122   右 丸 泉 400111000
 右 宇麼谷 400030000   二 町田弟 520000001
 中 田 中 410020200   遊 内 海 500010131
    合計 37802135171110     合計 42804652577

 ▲三壘打=将積 ▲二壘打=永井2、町田(弟)宇野 ▲残壘=神港11、二中5
 ▲併殺=木谷−将積−梅田 ▲逸球=将積2 ▲暴球=永井1
 ▲試合時間=2時間40分