昭和6年(19陽会)1931年

NO5

《武 陽》
 昭和6年6月15日(月)甲子園
 ダイヤコーチリーグ第三戰對縣商戰は六月十五日午後四時より甲子園に於て
  杉村(球)小室(壘)二氏審判の下に縣商先攻で開始。

第一回。縣商一▲井上遊匍後濱田二匍失に出で直ちに二盗、中山も三匍失に生き續き井神の一二壘間を抜くタイムリーヒットに濱田生還、中山は一擧三壘をついて松村の好投に刺さる。居川三振。
二中零▲成川投匍、佐久間中飛後野田二遊間安打、田中三遊間安打に出たが惜しくも大中遊直に倒る。

第二回。縣商零▲竹本中飛、堀捕邪飛、田中二飛。
二中二▲池田一邪飛、井上四球、松村も四球に出で名倉中越安打で井上本壘をついたが刺され、松村三壘、名倉二壘に到る。成川の遊匍は悪投となって松村、名倉生還、成川も二進したが佐久間中飛。

第三回。縣商一▲若林右飛、野田のコントロール亂れ、井上、濱田、中山共に粘りに粘って四球に出で井神の遊匍ハンブルに井上還りしが居川三振、竹本投手フライ。
二中零▲野田中飛、田中三振後大中投手足下を抜いたが池田投匍。

第四回。縣商零▲堀三振、田中四球に出たが若林三邪飛、井上三振。
二中二▲井上に代る山脇捕邪飛、松村四球に出て名倉の中越三壘打で生還、成川も中堅安打して名倉生還、佐久間の遊匍に成川封殺され野田右直失に續いたが田中三匍。

第五回。縣商零▲濱田四球に出て二盗成ったが中山の遊直に、重殺され井神二飛。
二中零▲大中右飛、池田遊匍後山脇左越二壘打に出たが松村の遊匍失に本壘を襲ひ間一髪刺さる。

第六回。縣商零▲居川右飛、竹本二匍後堀四球に出たが田中遊飛。
二中零▲名倉右飛、成川中直、佐久間中飛。

第七回。縣商零▲若林左直、井上遊飛後濱田四球に出たが二盗に刺さる。
二中零▲野田中飛、田中三振、大中二飛。

第八回。縣商一▲中山三振、井神遊匍後居川遊匍低投に生き竹本の中堅越二壘打で生還、竹本は堀の二遊間安打でホームをつき殺さる。
二中零▲池田中飛、山脇一飛後松村四球に出たが名倉三匍。

第九回。縣商二▲田中左飛、若林四球、井上中前安打、濱田四球で一死滿壘となり、中山の投匍で若林本壘に封殺されたが井神は一−二後浅く守ってゐた左翼の頭上を抜き井上、濱田生還、居川左飛に終ったが形勢逆轉す。
二中零▲奮然攻撃に移ったが成川左飛、佐久間三振、野田遊匍で三者凡退しあきらめられぬ敗を取る。

 縣立商業 101 000 012=5
 神戸二中 020 020 000=4


 〔縣 商〕 打得安犠盗三四残失
       數點打打壘振球壘策
 6 井 上 421001102
 7 濱 田 120020410
 4 中 山 400001120
 3 井 神 502000030
 2 居 川 510002000
 1 竹 本 401000000
 5  堀  301001120
 9 田 中 300000111
 8 若 林 300000100
     計 3255025993

 〔二 中〕 打得安犠盗三四残失
       數點打打壘振球壘策
 6 成 川 501000012
 2 佐久間 500001010
 1 野 田 501000020
 8 田 中 401002110
 7 大 中 401000010
 4 池 田 400000001
 5 井 上 000000101
 5 山 脇 301000000
 9 松 村 120000320
 3 名 倉 422000000
     計 3547003584

 △三壘打=名倉 △二壘打=山脇、井神、竹本 △併殺=成川−池田
 △開戰=四時十五分、閉戰=六時五分 △試合時間=一時間五十分

〔後記〕残念にも勝つべき試合を失った。試合に勝って勝負に負けたのだ。此の日の戰前山脇腹痛を起して代りに弱冠井上が三壘を守ったが、之がたゝって一回には一點を先取され、攻撃に於ても名倉の二壘打たるべきものを死なせてしまった。

 此の日野田コントロール範く度々危機を招き、三回には一點で食止めたが九回遂に大いな破れを見せてしまった。攻撃に於ては名倉の當り日で五割の打率をあげ、大いに氣を上げた。が何んといっても九回に於ける外野守備の誤りが直接の敗因となったのであるが、一死滿壘の時に中山の投匍を若林と共に佐久間が一壘に低投して併殺し得なかったのも間接の敗因であろう。

 但此の裏面には試験後の練習不足があったのであるが。然し敗けた上は仕方がない。攻撃に優ってゐたのをせめてものなぐさみとして諦むべきだ。

《武 陽》
 昭和6年6月16日(火)甲子園
 ダイヤコーチリーグ第四戰對育英商戰は六月十六日、午後四時より甲子園に於て泉谷
 (球)洲崎(壘)二氏の審判の下に二中先攻で開始。

第一回。二中二▲佐久間遊匍悪投、成川四球で走者一二壘に寄り野田の犠打に進み田中三振したが、大中一二壘を抜いて佐久間、成川生還、先づ二點を先取する、大中は二壘をつかんとして一二壘間に挟殺。
育英零▲田代遊匍後新井四球に出て二盗したが崔の中堅深きライナーは田中の美技となり酒井右飛。

第二回。二中零▲池田二匍、山脇四球に出て二盗したが松村、名倉共に三振。
育英零▲勝田左翼安打、田淵中前安打に續いたが勝田の三盗ならず、田淵も亦二壘を望んで三壘よりの送球に刺さる。中務二飛。

第三回。二中零▲佐久間三振、成川二匍、野田投匍。
育英零▲縄田一匍後西田四球に出たが二盗に死し、田代、新井共に四球に出で捕手逸球に進んだが崔遊匍。

第四回。二中零▲田中遊匍失に出で大中、池田三振後二盗に成功したが山脇も三振。
育英二▲酒井三振後勝田三匍失、田淵、中務共に遊匍失に滿壘となり、縄田の一匍で勝田封殺されたが西田は投手後に小飛球を呈し、内野安打となって田淵、中務勇躍生還、同點となる。縄田は一擧三壘を望んで二三壘間に挟殺さる。

五回。二中零▲松村投匍、名倉二匍失、成川四球に續いたが佐久間三振、野田は遊匍で成川を二壘に封殺。
育英三▲田代中前安打、新井の投手バントは野選となって兩者生き、酒井の三壘安打で滿壘となり勝田の二匍は又もや野選となって新井生還、田淵の三匍失で崔還り、中務の二匍で酒井生還、縄田に代る水野三振。

第六回。二中零▲田中二匍、大中、池田共に三振。
育英三▲西田三匍側投、田代左前安打に續き新井二飛、後崔の中堅頭上を越す三壘打で二者還り、酒井の遊匍で崔も生還、勝田遊匍。

第七回。二中零▲山脇遊匍トンネルに出で松村三振後名倉四球に出たが佐久間三振、成川三飛、ラッキーセブンも幸せず依然凡退をつゞける。
育英零▲田淵三匍失に出たが中務の三飛後水野の三匍で封殺され、水野も西田の遊匍に封殺さる。

第八回。二中零▲野田三振後田中、大中共に四球に浴したが池田の遊匍で大中封殺され、ピンチヒッター松島三振。
育英四▲田代二遊間を抜き新井四球後捕逸で進み崔は左中間本壘打して三者還り、酒井一飛後勝田二匍一壘高投に二進し、田淵の中前安打で三進し、田淵二盗後中務の二匍で勝田生還、水野三振。

第九回。二中零▲松村二飛後名倉の三匍を一壘手落し、佐久間中直安打に出たが成川の遊匍で佐久間封殺され成川二盗したが野田遊匍で最後の攻撃も空しく萬事休す。

 神戸二中 200 000 000=2
 育英商業 000 233 04A=12


 〔二 中〕 打得安犠盗三四残失
       數點打打壘振球壘策
 2 佐久間 411002100
 6 成 川 410011112
 1 野 田 400101010
 8 田 中 300011020
 7 大 中 301002100
 5 池 田 400002012
 45 山 脇 200011123
 PH 松 島 100001000
 9 田 井 000000000
 94 松 村 400002001
 3 名 倉 300001130
     計 322213145108

 〔育 英〕 打得安犠盗三四残失
       數點打打壘振球壘策
 6 田 代 423000113
 79 新 井 221010320
 2  崔  532000000
 3 酒 井 511001001
 5 勝 田 511000011
 31 田 淵 512010020
 8 中 務 510000000
 9 縄 田 200000000
 7 水 野 300002000
 4 西 田 311000121
     計 391211023586

 △本壘打=崔△捕逸=佐久間2
 △三壘打=崔、野田、中田、池田
 △併殺=佐久間、山脇、池田
 △開戰=四時二十分、閉戰=六時三分
 △所要時間一時間四十三分

〔後記〕前日の惜敗に氣を腐らした我軍は育英の猛襲に会って潰滅してしまった。
一回大中のタイムリー安打に二點を得たものゝ野田投手の出來榮甚だ悪く、一回は田中の美技で、二回、三回共に危機に見舞れながら敵の暴走に喰止めて來たが追はれる者の悲しさ四回同點とされてよりは洪水の堰を切って流るゝが如く敵に得點を許したに反し、此方は酒井投手のカーブが打てず、徒らに、三振、凡飛をくり返すのみで僅か二安打を放ちしだけ、

 又守備方面に於ても三壘を守る者が無く山脇、池田共に適せず、失策續出する有様で、對關西戰の好調は全く影をひそめ、崔の巨砲、酒井の健腕に壓せられて、投手に人無き今此く無残に敗るも來るべき年こそはいかにしても仇を復すなり。諸君期待して待て。