《武 陽》
[ダイヤコーチリーグ戰出場之記]
昭和6年5月7日(木)甲子園
ダイヤコーチリーグ戰の第一戰對豐中戰は五月七日甲子園に於て四時三十五分、二中
先攻にて開始。審判 森口(球)皇谷(壘)
第一回。二中零▲佐久間四球に出て二盗、成川も四球目のパスボールで走者二三壘によりしが野田二飛、田中三振、大中は二−三後二匍して好機逸す。
豐中零▲矢富二飛、廣谷左中間二壘打したが荻田右飛、山脇三振。
第二回。二中二▲池田右前に安打し、田井の遊匍に封殺されたが美木、名倉共に四球に浴し、佐久間も四球で田井還り、成川は中前テキサスを放ちて美木を還せしが名倉ジャッジ悪く三壘に封殺され野田一邪飛で終ったが我軍二點を先取して意氣上る。
豐中零▲松田、武藤共に三振、大川遊飛。
第三回。二中零▲田中、大中共に四球、池田中飛、田井の二匍に大中封殺、田井二盗したが美木三振。
豐中零▲坂田三振、金澤一飛後矢富四球に出たが捕手の牽制球に一二壘間に挟殺さる。
第四回。二中一▲名倉四球、佐久間も四球、成川の中飛野手落したが佐久間を二壘に封殺、名倉三進、成川二盗後野田右飛して名倉生還、成川三進、田中三振。
豐中零▲廣谷四球に出たが荻田三振、山脇二飛後二盗に成功し、松田四球後武藤三振。
第五回。二中零▲大中投匍、池田二飛後田井中前に安打したが美木中飛。
豐中零▲大川三振後坂田右前安打、金澤四球に續いたが矢富三振、廣谷左飛。
第六回。二中零▲名倉三振後佐久間四度目の四球に出で成川の遊撃右を抜く安打に二進したが野田三匍して成川と共に重殺を喫す。
豐中零▲荻田遊匍トンネルに出でたるも山脇遊邪飛、松田、武藤三振。
第七回。二中零▲田中一邪飛、大中二飛、池田死球に出て二盗したが田井三匍。
豐中零▲大川遊匍、坂田投匍、金澤右飛。
第八回。二中零▲美木三振、名倉遊匍、佐久間も三振。
豐中零▲矢富右飛、廣谷三振、荻田中飛。
第九回。二中一▲成川四球、野田の遊匍に封殺されたが二壘手重殺を焦って一壘に高投し野田一擧三進せんとして危かりしが一壘手よりの送球を三壘失しその間猛然本壘を衝いたがカバーした左翼手よりの球に寸前に刺さる。田中之に奮起したるが○−二後の球を中越本壘打して一點を加へ益々勝利を確にす。
豐中零▲山脇投匍、松田三振、ピンチヒッター三木四球に出でしが大川の遊匍で封殺され、萬事休し、我軍先づ第一戰を握る。閉戰六時二十分。
〔後記〕我軍は勝った、堂々と勝ったが、貧打の誹は免れまい。敵投手山脇は巨驅を利用して投げ下すスピードある直球と大きく肩の邊より破れ下ちるアウドロは相當のコントロールがあれば立派に大阪府下でもさう見劣りのするものでもないが、今日試合前のウオーミングアップの不足か前半は全くコントロール無く六、七回よりやゝ調子のとゝのひ出した感はあったが、それでもあまり威力はなかった。
然しよく我軍を四安打四得點で喰止めたものだ。加ふるに捕手武藤は弱肩、捕球の不確實さに形を未だなしてゐなかったし、元氣の無かった事彼軍敗因の重なるものであらう。之に對する我軍の打撃は餘りにも貧弱であった。僕に佐久間の四つの四球、田中のホームラン(之も三壘打性のものであったが)が目についたゞけである。
野田、大中のノーヒットは美木、名倉の不振と共に大に次試合に名譽を回復せられん事を望む。いづれも體力に恵まれてゐるのだから。飜って守備の方を見ると野田投手はスピードこそないがチェンジオブペースの巧みさと、大きくはないがコントロールあるドロップとは敵を完全に二安打ノーラン、三振十二に牛耳って敢て三壘を踏ましめなかった。又内外野の守備も野田を中心として大した破れも見せなかった。
要するに此の試合は兩軍とも元氣なき貧打戰として凡々たるものであった。
神戸二中 020 100 001=4
豐中中學 000 000 000=0
〔二 中〕 打得安犠三四盗残失
數點打打振球壘壘策
2 佐久間 100012120
6 成 川 301004141
1 野 田 500000000
8 田 中 411021110
4 大 中 400001000
5 池 田 301001110
9 田 井 411000120
7 美 木 310021000
3 名 倉 210012000
計 294406125101
〔豐 中〕 打得安犠三四盗残失
數點打打振球壘壘策
4 矢 富 300011001
5 廣 谷 301011121
3 荻 田 400010110
1 山 脇 400010000
8 松 田 300031010
2 武 藤 300030001
PH 三 木 000001000
9 大 川 400010010
7 坂 田 301010010
6 金 澤 200001010
計 29020125273
△本壘打=田中 △二壘打=廣谷 △逸球=武藤 △併殺=廣谷、荻田
△開戰=四時三十五分、閉戰=六時二十分
△試合時間=一時間四十五分 |
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