明治43年(1陽会)1910年

NO3

《武 陽》
〔校内奮闘史〕

◇第四回野球大會記事◇

第一日(十月十六日放課後)
 秋漸く闌ならむとするの日、例年の野球大會は開かれ、武陽原頭、健兒の意氣すこぶる揚れり。
〔第一回 二年級混合〕
 白軍の先攻に始まり、兩軍鎬を削って戰ふこと五回、第一回、白軍無為に終りしも、紅軍三點を得。第三回に於て、白軍、紅軍の隙に乗じて二點を収め、一時は結果如何と観衆をして、手に汗を握らせしめししが、結局五對三にて紅軍の勝利に歸す。
 

 紅 軍 5−3 白 軍

 〔白 軍〕  〔紅 軍〕
  泉   P  足 立
 谷 口  C  清 水
 前 田 SS  丹 治
 坪 田 1B  藤 本
 上 村 2B  石 坂
 増 田 3B  小 寺
 小 林 LF  今 井
 羽 栗 CF  五十嵐
 清 水 RF  三 木
 

〔第二回 一年級混合〕
 白軍先攻。林先づ生還して九士の勇を鼓舞しければ第二回に二點、第三回には一點を収め、更に第四回に於て三點を加ふ。之に反し紅軍の意氣始終奮はずして三振に次ぐに三振を以ってし、三壘に迫りし者僅に三名。大勢既に斯くの如くなれば、如何にもする無く遂に九對○てふ大なるスコアを残して、白軍遠く敗退す。
 

 白 軍 9−0 紅 軍

 〔白 軍〕 〔紅 軍〕
  林   P 鳴 海
 泉 谷  C 寺 見
 友 国 SS 吉 田
 西 島 1B 眞 田
 河 原 2B 川 島
 伊 達 3B 長谷川
 清 水 LF 橋 本
 葛 城 CF 羽 栗
 小 野 RF 坪 田
 

〔第三回 四年級對三年級試合〕
 之ぞ當日に於る最華々しき試合なる。兩軍の戰士全級の責任を、各其雙肩に擔うて立つ。熱せざらるむと欲するもそれ得べけむや。滿身の熱血、滾々として血管を環流して、正に破れんとす。此に兩軍奮闘の蹟を、叙して其戰況を顧みん。

 第一戰。吉川遊撃へグランダーを送って生き、菅の犠牲球に難なく生還す。盗塁及びデッドボールを利して菅又本壘を突破す。四年の意氣大に奮ふ。前川三振し茨木三壘にグランダーを送って倒れ、角尾三振して止む。三年、井口死球に出でしも、鍛冶の遊撃ゴロ二壘に投ぜられて止む。鍛冶怒って二壘を襲へば、捕手の球正鵠を得たれば、吉川間一髪之を刺す。山崎四球に出でしも建部三振して終る。

 第二戰。兩軍無為。 

 第三戰。直木、吉川續いて生還せしかば、三年大勢を挽回せむと努め、島三壘のゴロに生き井口のバントに生還す。

 第四戰。兩軍の戰士等相續いて倒れ得る處なし。

 第五戰。直木三振し吉川Pゴロに倒れ菅ファウルヒットに死す。三年變って攻む。宮岡二壘の飛球に死し、松本三壘を侵して後援を待ちしが井口のバント功を奏せず、鍛冶三振して止む。

 第六戰。前川安全打出でしが二壘に死し、茨木三振し角尾一壘に飛球を送りて終る。三年、山崎バントを以って奇功を奏せむとせしが、捕手藤本の刺す處となる。建部の凡死に次いで橿村ボックスに立ち、長棍一打すれば球は遥に中堅右翼間を貫き絶好のヒットとなる。二壘を一擧に奪ひ、奮然として本壘躍入す。田中猫の如き獪眼をもって四球を得しも、憫むべし、三壘に憤死す。

 第七戰。田中二壘にゴロを打って倒れ、菊岡、藤本相續いて三振す。三年攻む。島小飛球に死し、短躯猿の如き松本バントを以て三壘に進み井口のバントに生還す。而して井口亦鍛冶のバントに本壘を得。戰機漸く熟せむとする頃、三年の旗色漸く鮮あらむとす。

 第八戰。直木四球を得しも二壘に消え、吉川、菅相續いて倒る。三年又なす無し。戰方に熟し、将に白兵戰とならむとして、兩軍の剣戟夕陽に映じて凄じ。

 第九戰。四年得る處無く三年變って攻む。田中三振し宮岡セカンドゴロに倒る。續いて立つ島の胸中如何憫れ島も亦直木の快腕に弄せられて三振す。

 斯くして四年級の勝に歸し、武陽原の一角、歡聲呼號暫し菊水の流を止む。其成績次の如し、 

 四年生級 202 000 000=4
 三年生級 001 000 200=3

       打安犠三四得
 〔四年級〕 撃全牲 死  
       數球球振球點
 2B吉 川 400002
 SS 菅  301101
 1B前 川 110200
 3B藤 木 200100
 CF角 尾 100200
 RF田 中 300000
  C藤 本 100200
 LF菊 岡 200100
  P直 木 100111
 

       打安犠三四得
 〔三年級〕 撃全牲 死 
       數球球振球點
  C井 口 301010
 2B鍛 冶 201110
 1B山 崎 200110
  P建 部 200200
 3B橿 村 110111
 CF田 中 000310
 SS宮 岡 410000
 RF 島  300101
 LF松 本 200101
 

第二日(十月十七日=秋季皇靈祭)
 夜来の雨、無残にも武陽原を荒らす。午前八時前後より陸續集まれる校友は如何で此の雨の為に、今日の快擧を廢するにしのびむや。即て相共力し砂を運び泥を排して孜々、努力すること二時間餘、さしもの泥土も校友の熱誠なる修覆に、姿を變じて漸く試合に堪ふるに至る。試合を開始せしは、午前十時を過ぐる頃、グラウンドの悪き、試合中しばしば滑稽なる失策を續出せしめたり。
 

〔第四回 二年混合〕
 第一回。白軍二點を収め紅軍得る無く、第二回、第三回、兩軍無為、第四回、白軍又二點を加ふ。第五回白軍三木三壘にありて本壘を窺ひしが、田中の快腕、上野を三振せしめ白軍志を得ず。

 紅軍變って攻め、意氣衝天の慨ありて、将に為すべしと見えしが白軍にも亦勇士あり、曰く、投手として令名我界に高き久米、堅實を以って鳴る捕手吉田、豈空しく紅軍の蹂躪するに委せむや。悠々として迫る球、神に入れり。即ち兒島、小寺、泉等相続いて三振す。遂に四對〇のスコアを以て白軍の大勝となる。
 

 白 軍 200 20=4
 紅 軍 000 00=0
 

 〔白 軍〕 〔紅 軍〕
 久 米  P 田 中
 吉 田  C 森 本
 足 立 SS 今 井
 三 木 1B 山 西
 前 田 2B 坂 元
 石 坂 3B  岡 
 上 野 LF 兒 島
 鹽 住 CF 小 寺
 清 水 RF  泉 
 

〔第五回 三年級混合〕
第一回、白軍の無為に引きかへ紅軍島の安全打ありてよく士氣を鼓舞し一擧四點を得。第二回、兩軍得點なし、第三回、白軍一點を収め始めて蘇生の観ありき、第四回、白軍又二點を加へ紅軍をして顔色無からしむ、第五回、兩軍遂に無為に終り四對三にて紅軍の勝。
 

 白 軍  001 20=3
 紅 軍 400 0A=4
 

 〔白 軍〕 〔紅 軍〕
 増 田  P  島 
  泉   C 西 村
 長谷川 SS 河 島
 藤 木 1B 鹽 住
 吉 田 2B 石 坂
 前 田 3B 兒 島
 田 中 LF 山 西
 川 島 CF 足 立
 鳴 海 RF 小 寺
 

〔第六回 各年級混合〕
 第一回。紅軍の先攻に開始され其無為に反し白軍一點を収む。第三回、紅軍の零に對し白軍二點を得旗色原頭に鮮也。第四回、兩軍の攻撃奮ひしかど守備巖にして乗ずべき隙無し。第五回、白軍更に二點を加へ遂に五對○を以って白軍の大捷に歸す。紅軍の敗残實に哀むべし。
 

 紅 軍 000 00=0
 白 軍 102 02=5
 

〔白 軍〕  〔紅 軍〕
 岡 本  P 井 口
 鍛 冶  C 前 田
 宮 岡 SS 藤 本
 田 中 1B 松 本
 森 本 2B 吉 田
  島  3B 橿 村
 藤 本 LF 山 崎
 長谷川 CF  岡 
 増 田 RF 神 田
 

〔第七回 三年級混合〕
 第一回。山崎四球に出でゝ生還し一點を得(紅軍)白軍の橿村、岡本、鍛冶、菊岡相續いて生還し四點を得、第二回、第三回、第四回兩軍共に志を得ずして終り、第五回に至りて紅軍一點を加へしが、兩軍交々投手の手腕に封ぜられて活躍を見るを得ざりき。四對二にて白軍月桂冠を戴く。
 

 紅 軍 100 01=2
 白 軍 400 0A=4
 

 〔白 軍〕 〔紅 軍〕
 橿 村  P 山 崎
 田 中  C 井 口
 岡 本 SS  島 
 鍛 冶 1B 平 木
 菊 岡 2B 前 田
 宮 岡 3B 吉 田
 増 田 LF 松 本
 小 寺 CF 鹽 住
 神 田 RF 黒 田
 

〔第八回 四年級混合〕
 白 軍 003
 紅 軍 102

(雨天の為中止)

〔第九回 一年級對二年級試合〕
 一年級 100 000 000=1

 二年級 010 021 10A=5
 

       打安犠三四得 
 〔二年級〕 撃全牲 死 
       數球球振球點
  C吉 田 200111
 LF上 野 310100
 1B田 中 200110
  P久 米 200200
 2B森 本 100122
 3B清 水 400000
 SS今 井 000121
 RF小 西 300001
 CF三 木 100110
 

       打安犠三四得
 〔一年級〕 撃全牲 死 
       數球球振球點
 CF西 島 000311
 2B 島  300010
 SS箸 倉 400000
  P兒 島 300100
 LF西 村 100120
 RF吉 川 200110
 3B大久保 400000
 1B庭 山 300000
  C長谷川 200100

かく本年度の大會は閉ざゝる。
(以上菅稿)