《選手變動の略記》
明治41年度の撰手左の如し
〔投 手〕直木重一郎
〔捕 手〕栗屋、井口 留市
〔遊撃手〕菅 和三郎
〔一壘手〕角尾、中村 従吉
〔二壘手〕池田、小野
〔三壘手〕井口 留市、村井伊太郎
〔左翼手〕伊井
〔中 堅〕角尾、竹内
〔右翼手〕菊岡 明、吉川
明治42年度の撰手左の如し
〔投 手〕直木重一郎
〔捕 手〕井口 留市
〔遊撃手〕菅 和三郎
〔一壘手〕中村 従吉
〔二壘手〕前川 俊栄
〔三壘手〕藤野 三郎
〔左翼手〕伊井、横川市平、村井伊太郎
〔中 堅〕横川市平、菊岡 明
〔右翼手〕村井、川本弘夫
明治43年度の撰手左の如し
〔投 手〕直木、岡本、茨木一三
〔捕 手〕松本寅太郎、井口
〔遊撃手〕菅
〔一壘手〕中村
〔二壘手〕前川
〔三壘手〕茨木、村井
〔左翼手〕井口
〔中 堅〕鍛冶 仁吉
〔右翼手〕直木
〔補 缺〕建部、高瀬、久米
【校内奮闘史】
四十一年。春風駘蕩として百卉芳を鬪はし。萬花其美を争ふ卯月、百五拾の男子此所に進取向上の精神を以て、其活動は武陽城に開かれぬ。之れ朝に筆を取り夕に冊子を繙く健兒は、三時を告ぐる鐘の音を相圖に、荒涼たりし武陽ケ原も健兒活動の巷と化し、ボールの空を飛ぶ音、バットの響き、ミットの音は益々高く。春過ぎて炎暑焼く夏も亦健兒活動の聲は依然として、神撫山頭高く響けり、星を戴いてこそ家を出でねど。 月を踏んで歸る撰手又校友の等しく目して其の努力を知るのみ。誰か言はざらむ武陽小也と。然り小也小はやがて大となる也。
世は當に濁流の巷となり、青年學生の堕落の聲、天下に喧然たるの時也。而して學生自から現代の悪思潮に囚はれたるに反して、余等武陽の人となるや、克く其の悪思潮を去り、唯一人泰然として世の濁流と戦ひつつ、夏すぎ秋來たりて、武陽の空益々高く、健兒の理想亦益々高きを加へて、此所に秋の活動のシーズンの幕は落ち、バット、ミットの音益々冴ゆ。
時漸く熟して部長の教訓益々功を奏し、此所に十一月二十二日を以て、待ちに待ちたる野球大會は武陽原に開かれたり。之れ實に本校呱々の聲をあげて、初めての大會にして、秋漸く老い込むとすれ共唯老いざるは健兒の活動のみ。
廿一日(土曜日)放課後先づ混合試合より始まりぬ。本日混合二回責任試合一回ありて日暮れて止みぬ。責任試合。之れ壹組對二組の試合にて其の撰手及び成績左の如し。
得點0 得點17
(二 組) (一 組)
角 尾 P 直 木
奥 山 C 原田(孝)
菅 SS 川 本
林 1B 村 井
田 寺 2B 小 野
粟 屋 3B 馬 詰
竹 内 LF 原(振)
脇 CF 菊 岡
小 橋 RF 田中(勇)
是を以て之を観るに、一組依然として強く、二組の大敗や實に甚し。二組の投手角尾稍投球正鵠を得て、且、強球を投ずること多きに、克く一組の打ち得たるは、之れ全く一組の練習の盛なるにあり。第一戦に一組二點を得て、第二戦益々猛攻撃に敵を苦しめ、一擧して四點を収めたるは好成績といふべし。
此に於て敵益々亂れむとせるも、角尾克く全軍を率ゐたるは敗北の将とはいへ、其の功大也と謂はざるべからず記せよ。
二組の撰手、應援の諸君、一組の諸君亦月桂冠を得たるを誇りとすると共に、益々勵めよ。戦の幕は閉ぢらるゝや日漸く神撫山陰に没して黄昏はせまり來りぬ。此に於て部長池田多助先生發聲の下に、第二中學校萬歳を三唱し、明日を約して去りぬ。
時に理想の星は神撫山頭上高く輝き、六甲摩耶の峯巒は吾れを迎へ湊川の水は清く、一組の勝を談じ二組の大敗を論じて、家路へと急ぎぬ。武陽原頭四顧寂寥たり。
廿二日は明け渡りて鳥の聲は鷹取の山に響き。肥馬は野に嘶き、バットの音は武陽原に響き渡り、一聲高き審判の聲と共に、本日の戦は開かれぬ。混合試合あり。午前三組對四組の責任試合あり、兩軍共に克く守り克く攻めて、應援隊より起る歓聲武陽に響き渡り、見る者をして血湧き肉躍らしめたり。兩軍の撰手次の如し。
得點10 得點11
(四 組) (三 組)
山 崎 P 茨 木
藤 井 C 井 口
原 SS 小 瀧
友 成 1B 中 村
横 川 2B 前 川
藤 野 3B 吉 川
鈴 木 LF 伊 井
柳 瀬 CF 田中(庸)
柴 田 RF 北 村
試合。時來れば五回にて止めぬ。兩軍共第一戦に於て五點を得て同點。應援隊より起る彌次の聲、益々高くなりて四組漸く亂れむとする四戦の時、我軍一點を加へて此に十一對十の戦となりぬ。三組克く敵の攻撃を制したり。之れ全く投手茨木の老練なるにあり。午後吾が校對一中との試合は行はれ、十二對七にて吾が軍の敗北に終れり。之れは「奮闘史」に入れたれば此所に書かず。
斯くして第一回の野球大会は終りぬ。顧るに僅に四月以来の練習なれば、此所に一中との試合には敗北したりしとは言へ、其の部員の努力や決して空しからざりしを知る。日漸く暮れて西の浮雲眞紅なる頃、一同野球部歌を唱し、部長發聲の下に我が野球部の萬歳を三唱して、歡呼の聲の裡に幕は閉ぢられぬ。本日稍々寒氣強く感ぜられたれ共、さすがの健兒如何でか寒きを恐れむ。獰猛。質素。自重。至誠。は益々發揮せられぬ。
思ふに四十一年度は一組三組肩を並べて優劣を争ひたりしが、常に三組よく一組を壓しつゝありき。二組四組亦等しく第三位四位にあり。一、三の兩組には及ばすして、四十一年は過去の年となりぬ。概して三組運動にいづれば、其覇権を握りたりき。四十一年の武陽城は大略此くして終り、四十二年の四月亦新に同窓生百五十を増して、武陽城は益々賑ふに致りしぞ愉快なる。 |