《武陽第19号》 大正10年5月發行
◎對北野中學校
大正9年10月10日(日)神戸二中
扇港野球大會に於て仇敵一中に敗れたる吾部選手は悲憤やる方無く其後鋭意練習を重ねしが、恰もよし浪速の雄北野中學昨年の約により挑戰し來たりしかば絶好の腕試しと躍然之を本校々庭に迎へぬ。彼昨年の惨敗を雪がんと必死となりしも何條我が本城を突くを得んや。再び六A對二に潰走せしぞ憫れなる。
敵先攻。第一回内村の三壘打ありて二點を得、大ひに気を揚げしも爾後松浦の猛球に制せられて一得點無きに反し、我軍第一回金澤の三壘打に先づ一點、三回四球と松浦の中堅越三壘打に二點を加へ、四回又四球連發と敵失に一點を得しかば敵軍周章投手を金子に代へ五回辛くも我が猛撃を支へしが、六回に入るや金澤再度の三壘打を左翼に送って一點、七回更に井垣の右中間三壘打に一點を増し計六の得點を算し九回ゲーム六+A對二にて武陽軍大勝す。兩軍の成績次の如し。
北野中學 200 000 000=2
神戸二中 102 101 10A=6
〔二 中〕 打得安盗三四失
數點打壘振球策
6 木 谷 5200201
5 金 澤 5020201
4 野 澤 3201211
2 将 積 3100020
1 松 浦 4010001
3 井 垣 4020100
9 梅 田 4100000
7 花 房 2000120
8 田 中 3000110
計 33651964
〔北 野〕 打得安盗三四失
數點打壘振球策
2 豐 田 4020200
43 奥 田 3100112
8 内 村 4110002
6 末 永 4000302
14 村 田 4000100
9 日 昔 3001000
7 川 崎 3000100
31 金 子 3000101
8 中 馬 3000300
計 312311217
△残壘=二中10、北野3
△(球審)猿渡(壘審)傳谷
《武 陽》
[第三高等學校野球大會出戰記]
◎對京都一中戰
大正9年10月31日(火)三高
本年最後の活躍舞臺たる三高野球大會は十月下旬を以て擧行さる。我が軍亦掉尾の奮闘を期して勇躍之に参加す。敵手は京洛の雄京都一中なり。往年我等が先輩の敗戰後未だ相會ふ機を得ざりし好敵手なり。さらば奮撃一番、往にし讐を報いん哉。
審判 山粗(球) 松村(壘)兩三高選手
第一回。敵に先攻を譲って我軍先づ布陣す。先頭大瀧、松浦の肩慣れざるに乗じ四球を奪って出で巧みに二壘を盗む。劈頭危機吾を襲ひしも山中を三振に林を一匍に葬り大瀧の三壘到達を許して續く中出を本壘に憤死せしめ敵をして乗ずる餘地無からしむ。
△代りし吾軍木谷先づ四球を選んで大瀧に報い金澤亦四球に出でて好機到りしも松浦の軟打木谷を三壘に詰殺し将積,井垣共に飛球を遊撃に捧げて點を為すに到らず。
第二回。鶴澤二飛失に出で岸本の三振後磯田の三壘安打に二壘に送られしも岸田中飛、岸三振にスタンディング。
△野澤三振に斃れしも花房四球に出で直ちに二壘を盗奪、更に梅田の二壘を過らせしに乗じて三壘に達し虎視眈々本壘を窺ひしも田中不正打球に死し衆望を負ひし木谷亦二壘に匍球を呈して好機再び去る。
第三回。敵軍一死後山中三失に出でて二壘を盗み林の三振後更に三壘に走って安全の態。中出四球に續き型の如く二壘を得しも既に二死なり、何條危からんと思ひしに鶴澤の難飛花房失し山中躍然として生還、鶴澤亦二壘に達す。
突如牽制球二壘に飛ぶと見るや三壘の中出脱兎の如く本壘に突進す。野澤本壘に好投せしに何事ぞ将積失して敵僥倖の一點を加ふ。岸本の遊匍木谷一壘に高投して鶴澤生還。混乱の極に達せる我軍は更に磯田にヒットされしも三壘の岸本捕手に欺れて死し敵の攻撃漸く終る。
△奮起せる我軍金澤先づ中堅に安打して二壘盗奪に成功す。松浦四球に後を追ふ未だ無死なり。将積の猛直球アハヤヒットと思はれしも二壘手よく止め松浦を二壘に封殺す。
續く井垣巧妙のバントを放って金澤をホームに迎へ自らも亦安全なり。更に野澤遊撃を失せしめて将積易々として生還。花房尚もとバントせしも投手の正面を突き本壘に驀進せる井垣無惨捕手の足下に横はる。梅田痛打せしも右翼の好投に斃れてて止む。
第四回。岸田二匍、岸三匍、大瀧又も四球を得しが二壘に走って将積の好投に斃る。△我軍打順のラストよりなり。絶好々々振はざるべからず。よし行けと先づ田中を打盤に遣る。田中よく四球を強奪し二壘を得、木谷の絶好のバント三壘に達す。
金澤投手強襲に生き後援を待つ。松浦よく中堅にクリーンヒットを飛ばし田中、金澤轡を並べて生還。松浦二壘を望んで成らず。されど将積左翼安打に出で井垣の中堅越二壘打に悠々牙城を陥る。野澤遊失に續きしも花房三振に斃れてて止む。されど堂々たるエンドラン三個を得て意氣虹の如し。
第五回。敵周章して攻む。山中、林脆くも三振に斃れし後中出再び四球を奪ひ鶴澤の中堅越の猛打を待って生還一點を恢復す。鶴澤亦一擧三壘に達せしも貧弱なる岸本三球にて斃れ鶴澤立往生の餘儀なく到れるぞ憐なる。
△我軍梅田三振、田中遊匍、木谷三振に振ふに到らず。
第六回。磯田二匍、岸田遊匍、岸遊飛、松浦の怪腕遺憾なし。
△金澤粘りしも三振、松浦四球を得しが代走木谷二壘盗奪成らず。将積三壘の小失に生きしも井垣邪飛球を右翼に得られて點をなすに到らず。
第七回。ラッキーセブンの聲に送られ敵は一番大瀧を急先鋒として猛撃を開始せんとす、戒めざるべからず。大瀧必死の一打アハヤ右翼をオーバーせんとせしも梅田後退よく掴んで滿場の大喝采を博す。山中のライナー木谷よく止め林の猛匍野澤乱れず。我軍の守備鐡壁の如く敵軍為す所を知らず。
△野澤先づ遊匍一失に出づ。花房正攻法を取ってバントせしも無惨小飛球となり捕手をして名を成さしむ。梅田立つ。戞!見よ球は左翼を破って轉々たり。野澤一呼本壘を突き梅田亦悠々三壘に達す。彼が今日の活躍燦然たる光を放てり。好漢自重自愛せよ。田中不甲斐なくも三振に死せし後木谷の奮打三壘を抜いて梅田生還。木谷二壘に走りしも盗壘王如何にしけん再び林、磯田の田楽刺に逢ふ。
第八回。戰は終局に近し。戰士の面上凄愴の気漲り観衆亦激戰に醉ふ。先頭中出二壘に安打して出づ。スハと思ふ間もあらばこそ跳り出でたる曲者鶴澤必死のスイング戞然の音あり左翼二壘打となって三二壘は敵が占むる所となる。
ピンチピンチ、岸本三振して一死を數へしも磯田の二匍、野澤本壘へ投ぜしも及ばず中出生還、岸田の遊匍に死する間に鶴澤生還、磯田亦無謀にも本壘を得んとす。井垣ナンノと本壘に好投して磯田を憤死せしむ。
△我軍掉尾の勇を振ひて攻むめしも機を得ず金澤Pゴロ、松浦三振、将積左飛に我軍の攻撃止む。
第九回。戰は最終なり而も差僅か一點のみ。敵軍必死の形相物凄く如何にもして一點を得んと攻め立てしも回を追うて辛辣を極むる、松浦の怪球を如何せん。岸、大瀧、山中振れども當らず三者枕を並べて本壘の露と消えたる痛快の極と言ふべし。
戰全く終る。七+A對六武陽軍勝つ
京都一中 003 010 020=6
神戸二中 002 300 20A=7
〔二 中〕 打得安犧盗三四失
數點打打壘振球策
6 木 谷 30110111
5 金 澤 42101111
1 松 浦 30100120
2 将 積 52100001
3 井 垣 30110000
4 野 澤 41000101
7 花 房 30001101
9 梅 田 41100100
8 田 中 31001210
計 327623855
〔京一中〕 打得安犧盗三四失
數點打打壘振球策
3 大 瀧 30001221
8 山 中 51002300
2 林 40000200
1 中 出 23100121
6 鶴 澤 42201002
5 岸 本 40000301
4 磯 田 40200002
9 岸 田 40000000
7 岸 40000200
計 3465041347
△三壘打=梅田、鶴澤 △二壘打=井垣、鶴澤 △残壘=本校8、京一中5
△試合開始=2時45分、終了=5時10分 △試合時間=2時間25分
9陽会(大正10年卒)
名倉 周雄 中堅
松浦 一六 投手
門倉 亮介 遊撃
渡辺 大陸 投手
野澤 勇 二塁
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