大正8年(7陽会)1919年

NO5

〈朝日新聞〉
◇縣豫選
大正8年8月3日(日)東遊園地
午後1時25分開始 3時45分閉戰
(審判)球審・深見 球審・大場
▽準優勝戰
 神戸一中 500 002 000=7
 神戸二中 000 010 000=1


 〔一 中〕     〔二 中〕
 中 物 集     中 北 澤
 遊 藤 尾     左 木 村
 一 來 田     二 野 澤
 投 山 口     右投渡 邊
 三 吉 田     遊 島 津
 捕 石 關     捕  堀 
 左 佐々木     投三松 浦
 右 白 神     一 小 畑
 二 小 川     三右木 谷

 失四三安打     失四三安打
 策球振打數     策球振打數
 277532     9110228

▲第一回 一中物集劈頭四球を利し藤尾の犠打、投手一壘に悪投して走者二三壘に據り來田四球に早くも滿壘の好機を生じ二中投手松浦を正投手渡邊に代へて二死を數へしが捕逸、物集を入壘せしめ、更に捕手冗球を三壘に悪投して藤尾を入れ石關四球に續き佐々木安打を放って二中の陣容為めに破綻を生じ一擧五點の大を許す。二中代って凡打に終る。

▲第二回 一中敵投手に阻まれて一壘を踏むものなし。二中渡邊中堅大飛球に仆れ島津遊撃を襲って死し堀三振す。

▲第三回 一中三者三振。二中三匍、遊匍、一飛に葬らる。

▲第四回 一中白神四球に出でしが小川中飛に退き物集の二壘直球白神と共に併殺さる。二中北澤中左間二壘打に出で好機湧くやと思はれしに木村投匍に死し北澤三壘強襲に斃れ野澤三振して大事去る。

▲第五回 一中二死後山口遊匍の失に生きしも吉田遊飛を揚げて事なし。二中渡邊三壘前の緩匍に出でゝ野手の暴投に二壘に及び島津の遊匍に送られ堀の絶巧軟打を三側に致して渡邊生還一點を恢復す。

▲第六回 一中の攻撃再び振ひ石關四球を利し捕逸に壘進佐々木の犠打投手一壘に悪投して石關入壘。白神の見事なる犠打佐々木を三壘に送り小川打盤にある時佐々木機を見て驀進ホームスチールに成功せしは目覺ましくも點積んで七となる。二中代って走者を一壘に置きしも後援なし。

▲第七回 一中來田中堅安打に出で山口の軟安打に二壘に送られ吉田の遊匍來田を三壘に憤死せしめ石關次で軟安打に出でゝ滿壘、捕逸の隙を狙ひて山口本壘に殺到せしが間一髪間に刺され佐々木の邪飛に點をなさず。二中の好守稱すべきなり。二中代って凡打意氣昴らず。

▲第八回 一中二死後物集中飛の失と逸球に二壘に進みしも投手牽制に刺さる。二中攻めて利なく回は移って最終

▲第九回 に入り一中藤尾は三匍、來田の中飛は北澤疾驅して之を手中に収め山口四球を利せしも吉田三壘直球に止み二中死力を悉して攻めしも木谷三振、北澤左飛、木村二匍に萬事休し七對一以て一中大勝せり。時に三時四十五分。

〔概評〕勝敗の數を決する、よく第一回に如くはない一中先攻するや二中の間隙に乗じて忽ち五點の大を獲得し早くも榮譽ある勝利の鍵を握った。戰前の豫想に反し、反對に終始敵を壓迫して、流石の二中軍をして手も足も出さしめず七對一の大勝を博し、一中軍の戰士の面上燦たる夕陽に輝いた。

 之に反し思はざる敗北を見た二中軍のさても悲惨なる哉、策戰の齟齬、敗因は正に此一語に盡きてゐる。第二投手を陣頭に立てゝ必勝の自信を見せた迄はよかったが、不幸敵を見るの明がなかった。無死滿壘に及んで周章正投手に代らしめたが、時既に遲く二中軍の守備は捕手の逸球より崩れて凡失續出、渡邊の猛球も散々に打破られ、一木遂に大厦を支ふべくもなかった。

 攻撃に於ても四、五回無謀の三壘盗奪に失敗するなど確かにあせった跡がある。捕手の捕球の不確實なる亦敗因の大なるものであらう。吾人は、スコアの跡をたどるに當り油斷大敵の語を忘るべからざるを切に感ずるものである。

《武陽17号》大正9年5月發行
[第二學期奮闘史]
大正8年9月4日(木)御影師範
◎對神戸商業戰
 九月四日御影師範野球大會に招かれ仇敵神商軍と干戈を交へぬ。是れ二學期度劈頭戰にして、昨年の連敗に對する復讐の意氣は彌が上に高まり新陣容整然と緊って遂に彼を壓倒し去る、幸先よしと云ふべし。
 午後四時十分、我軍の先攻を以て戰は開かれたり。

 第一回。先驅木村四球に馬を進め野澤の不正打球死後快走一擧三壘に至り網干をして唖然たらしむ。北澤次で再び四球を選ぶや渡邊さらばと遊撃に痛打して先づ木村を入れ巳は後藤の失に安全たり。島津尚も四球に續き一死滿壘敵陣を脅かす事甚しかりしも木谷、将積三振して交代。

△敵も亦一番瀧川四球を襲ひ二壘盗奪、されど三壘を引續き盗まんとし北澤の好投に退けられ、藤田捕邪飛、網干三振。

 第二回。田中三振に死せし後松浦四球に生き木村左翼に單打を見舞ひ形勢又もや振はんとす。野澤立ち飛球を草柳に握られ北澤三壘を衝いて惜くも無為に終る。

△神商後藤二飛、草柳投飛の凡打、唯濱崎の左翼直球は将積危く掴んで長打となさゞりしが確に恐ろしき球なりき。将積の好捕初陣の功名なり。

 第三回。渡邊投匍、島津二匍、木谷四球を利し巧に二壘をスティールせしのみ、将積再度三振す。

△岸本、渡邊に飜弄され中野二壘の失にて生きたれど江藤又三振に退き瀧川遊飛。兩軍互によく守れり。

 第四回。我軍田中粘り粘って四球を奪ひ松浦の中堅大飛球の死後捕逸を得て二壘に及ぶ。續く木村尚も四球、好機三度到りしに野澤宜しく三振し田中無謀なる三壘盗奪、網干今度は逃さず。

△敵軍好打順を以て奮起せんと焦りしが藤田の強匍は野澤に名を成さしめ、強打者網干又々本壘上の死を遂げ後藤、田中を襲って退けらる。試合半を過ぎ未だ一對○の接戰を示せり。

 第五回。北澤四球に出でながら盗壘を急ぎし為網干の球に死し、渡邊カーブを無理に打って貧弱なる三匍、島津三振。

△敵軍同じく濱崎四球を奪取し二壘を盗まんとするや北澤何のとお誂へ向の球を野澤に送って之を殺す。草柳の左翼将積亂れず岸本、渡邊を襲ひしも無為。水も漏らさぬ守備鮮に心地よし。

 第六回。木谷尚も四球を得二壘スティール後藤の落球にて危ふくセーフとなりしが幸の前兆とも見るべく、續く将積投手に打ちし時濱崎の話の外の悪球を三壘に投じ木谷生還、将積は早くも二壘を陥る。田中三振に倒れたけれど松浦の投匍を濱崎前の失敗に恐れてか一壘に投じ走者を三壘に進ましむるや躍り出でし快漢木村、痛打一番右翼直安打を放って将積を易々凱陣せしめぬ。
木村二壘を盗まんと企て刺されしも我が得點三となり意氣更に加はる。

△八番中野四球に生き九番江藤尚も四球を選びて續く、北澤逸球して走者二三壘にあり而も無死。加ふるに暮色刻々場に迫り來る。瀧川をよく三振に刺止めたれど續きし藤田、島津のバントに備る頭上を痛烈なるライナーに突破し中野得たりと生還、一點を恢復す。壘にありし江藤此の時中野に踵で本壘を陥れんとせしかば将積好球島津に送り島津更に北澤に致して之を憤死せしむ。好守々々。藤田は木村に計られ二壘の露と消えたり。

 第七回。ラストインニング。野澤投手の失、北澤四球にて各一壘を踏しも何れも盗壘不成功に終り渡邊三振。

△敵最後の攻撃に移りし時には場内既に暗々冥々球道全く見えざるに近からんとす。網干の一打は二壘に飛びしかば辛くも刺殺するを得しも續く後藤右翼に安打直に捕逸によって二壘を浸せり。濱崎決然打盤に立つ、彼の一打や實に勝敗の分岐點なり、時鐵棍輕く響き小飛球一壘を襲ふ、我守備遂に揺がず發止、續いて發止、見よ濱崎、後藤は一壘二壘の脚下に倒れぬ。
 午後六時戰火茲に止む。三對一!神商惨敗。

 神戸二中 100 002 0=3
 神戸商業 000 001 0=1


       打得安犠盗三四刺補失
 〔二 中〕
       數點打打壘振球殺殺策
 8 木 村 2120202100
 4 野 澤 4000110221
 2 北 澤 1000103720
 1 渡 邊 4000010110
 6 島 津 2000011210
 5 木 谷 1100112100
 7 将 積 3100020210
 9 田 中 2000021100
 3 松 浦 2000001410
    合計 2132058102181

 〔神 商〕
 8 瀧 川 2000111100
 4 藤 田 3010000010
 2 網 干 3000020860
 6 後 藤 3010000402
 1 濱 崎 2000001032
 7 草 柳 2000000100
 3 岸 本 2000010600
 9 中 野 1100101000
 5 江 藤 1000011120
    合計 1912025421124

 ▲併殺=松浦、島津 ▲逸球=北澤2、網干1
 ▲審判=河合氏(球)西垣氏(壘)