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《武 陽》
大正８年４月８日（水）板宿球場
◎對慶應大學戰
△強剛渡邊投手板上に猛闘し
△一軍結束して好守好打す
本邦球界の覇者慶應野球軍は森新主将引率の下に來神せり。聲名一世を蓋ひたりし神戸出身故松田前主将の追悼試合として前輩ダイヤモンド軍と行はんが為なり。
我二中軍も絶好の機會と勇躍一戰を乞ひ快諾せられて八日、板宿球場に相見ゆ。
大伴（球）福田（壘）兩氏審判の下に慶軍の先攻を以て二時四十分開戰す。
第一回。渡邊の肩の定まらざるに乗じて高須、竹中先づ四球を選び永岡の投手ゴロに進壘、續く森強打者の左翼犠牲大飛球、高須生還一點を先取す。木村の好守賞すべし。
△さらばと北澤先鋒を承って起ちしも小野の怪腕に三度振り、野澤亦同じ。堀のゴロ。
第二回。新田遊撃グラウンダー、小野、高濱相次いで渡邊に飜弄され終る。
△渡邊二壘強襲成らず、島津投匍猿渡ナットアウトに生きしも五百井一壘に匍球し止む。
第三回。鈴木先頭に快打を中堅に放ち二壘を盗み、菅井の中堅安打を待って一擧生還せんとするや、北澤何のと白箭の好球を遠くホームに送りて之を刺す、鮮なり。されど高須の三壘ゴロに三壘に迫りし菅井と、四球を利して二壘に進みし竹中とは永岡の三匍一壘野澤の後逸に接續して還る。森左飛。
△松浦三振の後木村短振中堅に痛快なるシングルを放ち、悠々たる二壘盗奪に森君を苦笑せしめしも、北澤の左飛高濱疾走して掴み、野澤の匍球小野に沮まる。
第四回。新田、小野連續して劈頭四球を奪ひスティールに二三壘に據って我陣容を撹亂せんとするも、渡邊奮戰、高濱を三振に、鈴木を遊匍に、菅井を遊飛に打取って危機を脱す。島津の好守亦溌溂たり。
△二死後島津四球に出壘し投手の牽制に引掛って挟撃に遭ひ遊撃手の失に二壘に達せしも、猿渡の内野安打を得て一呼本壘を抜かんとして可惜一壘よりの送球に憤死す。
第五回。永岡内野安打せしのみ。遊飛、遊匍、中飛に高須、竹中、森の歴々も為すなし。
△我軍振ふ。即ち五百井四球に出で松浦の犠牲打に送らるゝや木村再度安打を中堅に飛ばして天晴れ主将振を發揮す。北澤衆望を負うて立ち苦心惨憺たるものありしも遂に邪球を三壘に得られ、野澤再び三振に斃れて、五百井、木村を三二壘に残す。誠に惜むべし。
第六、七回。新田遊匍、小野三振、高須投匍。鈴木三匍、菅井一匍、高須二匍。渡邊の快腕、壘手の善防心地よきの極みなり。
△島津六回二死後三振不死に、猿渡七回劈頭よく再度の安打を二壘に打って共に一壘を得しも、相同じく投手牽制球に死す。堀捕飛、渡邊三振。五百井中飛、松浦三振。
第八回。左打者竹中遊撃越の安打するや、永岡のバント渡邊一壘に暴投して三二壘を奪はる。森主将又も大飛球を中堅に放って竹中生還。新田右翼に飛安打して永岡生還。又も二點を加へて慶軍五點なり。新田二壘盗奪不成功、小野中堅飛球外野手亦盛に活躍す。
△我軍木村先頭なれば、此度こそはと勇み立ちしも空しく飛匍球を一壘に得られ、北澤三振、野澤右翼安打に氣を吐きしも堀一壘ゴロに又起たず。
第九回。高濱の匍球鉄壁島津鮮かに處理す。鈴木四球を奪ひ、菅井再び中堅安打せしも、高須の飛球、竹中の匍球、木村、松浦克く守ってランを與へず。
△最後なりと奮起せし猛打者渡邊の熱直球小野頽れず。飛将島津の憤打高濱亂れず。奸打手猿渡亦遂に三振に止む。五對○、戰は終に利あらず萬事茲に休す。
さあれ強敵慶應軍の矢面に起ちて毫も怯まず、我武陽軍奮戰大いに努めたりと謂ふべし。木村、猿渡の好打、島津、北澤、松浦、木村の好守、此れ當日の白眉たらずんばあらず。
吁、光榮の新鋭武陽若武者よ！幸に加餐自重せよ。
慶應大學 １０２ ０００ ０２０＝５
神戸二中 ０００ ０００ ０００＝０
打得安犠盗三四刺補失
〔慶應軍〕
數點打打壘振球殺殺策
６ 高 須 ４１００００１０１１
４ 竹 中 ３２１０１０２０００
３ 永 岡 ３１１１１００12２０
２ 森 ２００２０００11１０
８ 新 田 ３０１０１０１１８０
１ 小 野 ３０００１１１０００
７ 高 濱 ４００００２０２００
５ 鈴 木 ３０１０２０１１００
９ 菅 井 ４１２０１０００００
合計 29５６３７３６2712１
〔二中軍〕
８ 北 澤 ４００００２０３１０
３ 野 澤 ４０１００２０12０１
２ 堀 ４００００００５１０
１ 渡 邊 ４００００２００２１
６ 島 津 ４００００１０２５０
９ 猿 渡 ４０２００２００００
４ 五百井 ２０００００１１１０
５ 松 浦 ２００１０２００４０
７ 木 村 ３０２０１００３００
合計 31０５１１11１2614２
▲逸球＝森 ▲残壘＝慶軍３、二中４
《武 陽》
大正８年５月15日（木）板宿山下グラウンド
◎對關西學院高等部戰
△我軍悪戰苦闘し
△武運拙く敗走す
此の日我軍は好敵關西學院普通部に挑戰せしに先方の都合により、宛も當時關西専門學校野球大會に出陣すべく板宿に合宿して猛練習を積める同校高等部と山下グラウンドにて對戰す。
戰士稍々力抜けの感なきにしもあらず、且過日練習の際足を挫きし主将木村未だ全く癒えず、為にその溌溂たる活動も自由ならずして一壘に退き、猛投手渡邊又左翼に移り第二投手松浦を陣頭に擁し野澤三壘を守る。四時二十五分敵軍先攻にて開始。
第一回。老将柳田先づ遊撃を衝きて成らず。粟田二失に生きて二壘をスティールす、續く近藤再び強匍球を遊撃に放ち島津の好守に沮まれしも粟田三壘に達し、投手の暴投に僥倖の一點を得。松本三振。
△北澤一番なり、巧に四球を得極めて好望なりしに木村ゴロ、渡邊、堀中堅に飛球を捧げ、北澤の鮮かなる二三壘連盗も功なく劈頭好機を逸す。
第二回。青木捕手の打撃妨害行為により一壘を得、二三壘を無雑作に盗む。山崎の一飛後四本四球を強奪し又々危機到れり。松浦何をとばかり七球にて續く二者を三振に屠る、賞すべし。
△吾軍凡退。
第三回。柳田再度遊撃を襲ひてこれを失せしめ直ちに二壘に至り粟田の一匍に三壘にあり。老獪近藤輕く遊撃に打ちしを島津拾って柳田を本壘に憤死せしむ。近藤盗壘、されど松本の中堅飛球北澤のグラブに音あり。
△五百井四球の恩典に浴したるに二壘を盗まんとして刺され、野澤つまらなきボールにて三振を宣せられ、北澤二飛吾軍苦戰す。
第四回。三者何れも二壘及び遊撃に退けられて交代。
△木村憤打一番心地よき熱球を以て二壘の右を破り野澤代走、投手の暴投に二壘に據る。されど渡邊、堀何れも飛球を上げ走者進むを得ず、島津四球に生きたるも猿渡の三振に好機又徒に去る。
第五回。二死後柳田四球を得二壘に達すること型の如し。一に捕手のみの為にはあらねど堀の投捕球共に未だ研究の餘地大なるを覺ゆ。好漢夫れ自愛あれ。粟田凡ゴロを遊撃に打ちしに島津走者に妨げられトンネルを演じ、一氣にホームイン計二點を數ふ。近藤、松浦に捻らる。
△我軍盛に飛球を上ぐるのみ。意氣消沈せり。
第六回。松本三振後青木死球を食ひて出で盗壘及びパッスボールに三壘まで與ふ。されど山崎のサインの誤り（？）にて青木と共に併殺を喫す。
△二對零、何ぞ振はざると憤激せる副将北澤、長棍一振すれば痛快なるライナーは三壘頭上を突破し左翼手亦掴む能はず、周章として球を追ふ。北澤得たりと快足に砂塵を上げて一呼本壘を抜く、溜飲の下ること當に三斗なり。
一死後渡邊更に猛ゴロを中堅に送り巧に二三壘を盗み、二死後島津の高飛球に投手を誤らしたる隙に悠々得點、島津も亦敏捷盗壘して三壘にあり。大勢忽ち一變せんと思はれたるに猿渡惜くも投飛に倒れやむ。されど二點を恢復し意氣天に冲す。
第七回。敵亦奮起し四本熱球に左翼を襲ふ、渡邊之をノーバウンドにて捕へんと前進、及ばず、郤って後方に逸し四本三壘に至る。太田四球、ノーダウンにして走者三二壘にあり。
坪川好箇のタイムリーヒットを遊撃の右に打ち四本欣躍本壘に入る、而して尚二走者あり。ピンチピンチ、我軍大いに緊り柳田をよく投飛に退かしめ續く粟田のバント小飛球となり太田と共にダブルプレーを演ぜらる。（この回より北村入り近藤退く）
第八回。松本四球を利せしのみ。
△我軍北澤、木村、渡邊振って振り止む。
第九回。四本再度ヒットし二壘をスティール
す。太田ナットアウトにて球の捕手より一壘に至れる間にすかさず三壘に據り、坪川の犠牲打に更に一點を加ふ。
△我軍奮闘大いに努めしも堀、島津フライをかち上げ、四球を得たる猿渡も後續松浦の三振に残壘。
時正に夕陽西山に没落せんとして西風徒に寒し我軍の悪戰苦闘眞に同情に値す。
關學高等部 １００ ０１０ １０１＝４
神戸二中 ０００ ００２ ０００＝２
打得安犠盗三四補失残
〔二 中〕
數點打打壘振球殺策壘
８ 北 澤 ３１１０２１１１００１
３ 野 澤 ４０１００１０13００１
７ 渡 邊 ４１１０２１０００１０
２ 堀 ４００００１０８２１０
６ 島 津 ３０００２０１０６２２
９ 猿 渡 ３０００１１１０００１
１ 松 浦 ４００００１０３１００
４ 五百井 ２００００１１０２１０
５ 野 澤 ３００００１０２１００
合計 30２３０７８４2712５５
〔關學高〕
４ 柳 田 ４１００２０１３２００
８ 粟 田 ４１００１００５００１
２ 近 藤 ３０００１００３１０１
６ 松 本 ３００００２１１００１
３ 青 木 ２０００３１０６００１
９ 山 崎 ４００００１０００００
７ 四 本 ３２２０２０１１００１
５ 太 田 ３０００１２１１０００
１ 坪 川 ３０１１１１０１４２１
２ 北 村 １００００１０５１００
合計 30４３１11８４26８２６
▲本壘打＝北澤 ▲併殺＝堀、野澤、松浦、野澤
▲暴球＝松浦、坪川 ▲逸球＝堀３
審判＝本多（球）島村（壘）兩氏
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