大正8年(7陽会)1919年

NO1

《武 陽》 大正8年7月發行
〈神戸又新日報〉
大正8年4月4日(金)神戸二中
◎力士軍善戦す 六對九試合中止 難戰に陥りし二中◎

  力士軍020 031 0
 神戸二中150 201
 

 東京力士團對神戸二中野球戰は東遊園地に於て四日午後三時より擧行する筈なりしがグラウンドの都合のため俄かに變更し同日午後四時より二中グラウンドに於て福田氏審判の下に力士軍先攻を以て開始せり、

 曩に上組に大勝して大にメートルを上げ居たる力士軍も二中軍には一籌を?する態にて第一回無為二中軍一點を先取せるが第二回には力士軍調子能く一擧二點を得て万丈の氣慨を吐く、而も同回裏にて力士軍の守備亂れ大失策のため二中軍に五點を取られ大打撃を受く、第三回兩軍無為、四回に至り二中又もや二點を加へ意氣當るべからず、

 されど五回に至り力士軍滿壘となり常陸嶽の痛快なる安打によって三點を取り精氣を回復す。二中軍焦せりに焦れど効なく青木洋の氣持良きランニングキャッチにて止らる。六回力士軍一點を二中軍も一點を加へ第七回力士軍攻めたれど無為、時に六時半、暮色漸く迫りて試合を續行する能はず六A對九を以て閉戰せり。
(バッテリー、力士軍=海山−盤梯山、二中=渡邊−堀)

《武 陽》
大正8年4月5日(土)神戸二中
◎對和歌山中學第一回戰
△堀  劈頭戰に傷き
△和中偶然にも勝つ

 四月五日、我軍は和歌山より遠征し來れる和歌山中學を本校々庭に迎へ戰ふ。
 敵軍先攻。

 第一回。先頭打者北島心地よき渡邊の剛球に先づ三振を喫し、續く神田亦貧弱なるピーゴロに退き、早くも二死を數ふ。柳三振目の球を輕く二壘に打って走り野澤の失に危くセーフ。而も渡邊の暴投に二壘を奪ふ打者は四番なり、我戰士警戒怠らざりしも戸田戞飛して一、二壘間を直球に破り、右翼手の逡巡せるに乗じ柳勇躍三壘を突破して最初の一點を擧げ、戸田亦二壘に至る。

 されど渡邊大いに奮闘武内を三振に屠り去れり。此回初めて捕手の重任を負ひて本壘を守れる堀、激しきチップを受けて指を裂き、退陣の已む無きに至り、北澤代りてその後を襲ひ主将木村、中堅に入る。かくて堅實を誇れる我外野も左右翼に些か心細き感なき能はず、全軍の士氣も稍々衰へんとす。

△先陣を承れる北澤、敵に一點を先取せられ奮起してボックスに入りしもツースリー後三振し、木村投飛、田中亦三振に至極平凡なり。

 第二回。橋元三振、橋本二飛、井口三振。

△我軍渡邊、島津何れも二壘と左翼に飛球を呈して退き、五百井よく四球に出でしも一二壘間に挟撃せられて無為。

 第三回。敵の打順よし、さらば、と元氣よくシートに就く。九番打者武井初めてバットに心地よき音を響かせて三壘を襲ひしも、新進松浦平然として一壘に刺す、されど續く北島好箇の直安打を以て三壘遊撃間を抜いて出で直ちに二壘を強奪す。

 神田の遊匍、島津一壘に暴投し北島欣然ホームイン。既に二點を獲得し敵軍歡喜に滿てり。二壘に至りし神田、更に三壘盗奪を企てしも北澤何條生すべき鮮かに三壘に刺す。柳四球を刺し又も二壘をスティールし、尚投手の暴投に三壘に及び虎視眈々として本壘をうかヾふ。我バッテリー劃する所あり戸田を四球に送り出し、續く武内を再び三振に屠り去り危機を脱す。

△二對○、我軍蹴起すべかりしに打順悪く、松浦、上林及び好打手野澤、三振とピーゴロに倒れ振はざること甚し。

 第四回。橋元二壘を誤らして出で、橋本のバントに二壘に送られ、更に井口のバントに三壘に、井口自身は投手の野手選擇により一壘に安全なり。ピンチ三度襲來せしも我軍騒がず、武井、北島の強打者を見事三振に弄殺し終んぬ。

△打順一番よりなり。北澤痛打一振すれば健棒に戞然の響あり、球は三壘線上近く一直線に唸を發して飛びあはや安打と思はれしに井口好守して發止、掌中に刺止む、敵ながら天晴なり。續く木村我軍の不振を憤るや切に鐵棍を翳してボックスに入り、熱匍球に遊撃を誤らして出で稍々好望なりしも、田中三振、渡邊頼み甲斐なき凡ゴロを遊撃に送りて木村無慘スタンディング。

 第五回。神田二壘飛球、柳三壘匍球、戸田四球に出でしも武内の三度目の三振に残壘。

△我軍も島津ファールを三壘に掴まれ、五百井投飛に二死を數へ、次打者松浦よく粘りて四球を得たるに二壘盗奪に失敗。

 第六回。渡邊の腕漸くにして冴え來り、物凄き速球に敵打者顔色なく一壘ゴロ、遊撃フライ、及び三振に凡退す。

△我も亦上林は二匍に、野澤は遊飛に敢なく刺され振はざる時、俊豪北澤投手を衝きてその失に生き巧に二壘をスティールし初めて二壘に安全。かくて次打者木村の一打に待つや切なりしも、木村慎重に過ぎてPに終り、又も好機を逸す。

 第七回。武井、北島、神田相次で遊撃を襲ひしも、島津の鐵桶の如き守備毫も揺るがず。

△ラッキーセブン!の叫び聲と共に我軍猛然奮ひ立ち、田中を急先鋒とし總攻撃を開始せんとす。然れども田中無慘三度に屠り去らる。返す返すも不甲斐なき我軍の打撃のを見て、今度こそはと、快漢渡邊決意を眉宇に漲しつゝ悠然打者線内に入る。

 果然、彼の鐵棍に音あり、球は見事遊撃の頭上を貫きて我軍唯一の安打となり、渡邊更に敢然二三壘を連盗し意氣虹の如し。島津三振に倒れ二死となりし時五百井一撃遥か中堅左翼間を縫ふ絶好のスリーバッガーを戞飛し、渡邊時これ來れと疾驅又疾驅本壘に突入、好漢五百井の面目躍如とし全軍を掩ふ。
 松浦二壘に飛球を揚げて攻撃止む。

 第八回。堂々一點を得て意氣大いに揚れる我軍の守備抜けず三者凡退。

△我軍亦フライをかち上げて無為。

 第九回。戰は最後なり。咄、橋元功に四球を選びて出で二壘をスティールす、而もノーダウンなり。橋本の二壘ゴロ五百井よく捕へて一壘に刺しゝもランナー三壘にあり、八番井口又々四球を利し我軍のピンチ刻々に迫る。

 續く武井突如スクヰーズプレーを敢行す。渡邊捕へて橋元を本壘に刺殺せんとせしも時既に遅かりしを如何せん。武井亦生き未だ一死にして走者尚二三壘に依り、敵の攻撃何時已む可きかを知らず。されど渡邊の魔球北島を三振に退け、神田投手にライナーを捧げて二者スタンディング。

△差は僅か二點なり、いで一氣に挽回せんと我軍最後の攻撃に移る。主将木村凄愴の面影物凄く、好球を待って戞!再び三壘を誤らして生く。ネッキスト田中絶好のバントを三壘線上に呈すれば、三壘手周章焦りてハンブルし一壘に投ずるも及ばず、木村得たりと一擧三壘に猛進したるとき一壘よりの好球に無慘挟撃を食ひて憤死、あたら好機を逸せんとす。

 この間田中二壘を盗み打者は渡邊なり尚望多かりしに冒険なる三壘盗奪に失敗、既に二死となり、渡邊のバット亦徒に流れ捕手のミットに音ありしのみ。
 吁。三對一!我軍敗る。思はざる戰勝に和中狂喜す。我軍劈頭に當りて破綻生ぜし為なりとは雖、餘りに不振なりき。赤き血潮に燃ゆるナインよ、願はくば捲土重來光榮の日の近からんことを。

 和歌山中 101 000 001=3
 神戸二中 000 000 100=1


       打得安犠盗三四刺補失
 〔二 中〕
       數點打打壘振球殺殺策
 28 北 澤 4000110930
 87 木 村 4000000000
 6 田 中 3001130000
 1 渡 邊 4110210120
 6 島 津 3000010131
 4 五百井 2010001231
 5 松 浦 2000011120
 79 上 林 3000000000
 3 野 澤 20000011301
    合計 2712147327133

 〔和歌中〕
 6 北 島 5110130321
 4 神 田 5000000330
 2  柳  3100101730
 1 戸 田 2010112221
 8 武 内 4100030000
 7 橋 元 3000111100
 3 橋 本 3001000620
 5 井 口 2001221412
 9 武 井 3001100000
    合計 30323710526134

 ▲三壘打=五百井 ▲暴球=渡邊(二)