《武 陽》
[第二學期奮闘史]
◎對兵庫中學戰(十月三日)
二學期開始以来鋭意猛練習を積みたる我軍は對一中復讐の雄心勃々として抑え難く、再三再四戰を挑んで止まざりしも如何せん一中は言を左右に託して我挑戰に應ぜず、戰機いつ至るとも見えざりければ、脾肉の嘆に堪へざる我軍は四方に挑戰して先づ兵庫中學を迎ふことゝせり。
十月三日午後三時十五分、本校々庭に相見えしも敵軍我が鋭鋒に抗すべく余りに弱小なり。七回戰二十四對二の大スコアーにて潰走しぬ。我軍先攻をとって第一回、山脇先づ内野安打に出で入壘一點を奪ひしを手始めに、二回敵失と四球に三點、三回に至るや打者十五人、北澤久し振りにて豪打して本壘打を放ち、木村、野澤、島田、山脇安打したる外四球あり敵失あり盗壘數八箇に及び一擧十一點を奪ふ。
四回、劈頭西村珍らしくも長打して二壘打を演ずれば渡邊、島田シングルに續きて又も三點、五回敵失に乗じて二點、更に六回には渡邊の左越本壘打に續いて島田、木村の痛打あり一擧四點を得て總計二十四點なるに反し、敵軍善戰したるも及ばず、山脇が暴投の失を利して三回に二點を得たるのみ。渡邊六回目に敵軍唯一の安打を左翼に打てり。五時卅五分閉戰。
我軍五回目より渡邊右翼に退き、北澤投手を務む。六回目より五百井、有馬に代って初めて出場し、上林七回目に島田代って中堅を繼ぎ同じくに戰場に起ちたり。されど兩人共打者に起つ機なく上林は一回もボールに接觸せざりき。
大正7年10月3日(木)神戸二中 午後3時15分開始
神戸二中 1311 324 0=24
兵庫中學 002 000 0=2
打得安盗
〔二中軍〕
數點打壘
5 山 脇 5322
3 野 澤 5112
4 西 村 6211
8 北 澤 5211
1 渡 邊 6331
9 島 田 4335
2 有 馬 3402
6 島 津 4100
7 木 村 4524
計 42241318◎對明星商業戰(十月十三日)
御影師範大會が十三日に行はれるので招待を受けた我が部は直ちに快諾した。
大阪の雄明星商業軍來る。純黒のユニホームにホワイトソックス、物々しき戰装必勝を期するものゝ如し。好敵見參なれ。陸井主審プレーを宣して我軍先づ攻む。二時を過ぐる十五分なり。
第一回。北澤先頭を承って起つ。敵軍投手は吉國と名乗る小冠者なり、二振の後中堅に大飛球して斃るゝや島田三振に退き山脇二壘に飛球を呈して無為。一番森、一回もバット動かざるに好球續け様に三つ、痛快の三振を喫せしに有馬如何せし掴み損ねて一壘に暴投し、一擧三壘に進ましむ。後援されど續かず、仁熊の飛球を西村掴み、谷澤遊撃を衝いて刺され、梅田の飛球北澤よく走って手中にす。
第二回。西村三振の後、渡邊猛打左翼の陣深く二壘打を打込んで出づ、敵投手芳しからぬ牽制球に渡邊を刺しゝも、ボークを演じて有馬に一壘を與ふ。有馬勇躍得意の強襲もて二壘を奪ひし時、重成強打遊撃に匍球するや、森一壘に暴投して有馬欣然入壘、最初の一點を獲得しぬ。五百井二塁飛球。山口左翼に飛球して初陣の五百井に掴まる。
岡本四球せしも和田のグランダー重成取って之を二壘にフォースアウトし、和田二壘をスティールせんとして有馬の好球に感心して退く。
第三回。ラースト野澤劈頭遊撃を過らしめて出で二壘を盗壘、絶好のチャンス到りしに續く打者策戰を過って點をなさず。即ち北澤強振して三振せば、島田二壘にフライし山脇一壘ゴロを打って止む。敵軍も、於勢先づ死球を喰いて出づ。
吉國バントを試みしも三振すれば森右翼に打つ。島田ガツシとと握りしも投手に暴球を返して於勢に二壘を與ふ。然れども仁熊異様のバットの振り方して出で遊撃に飛球を得られて續かず。
第四回。西村振はず再び三振せしも躍り出でたる猛打手渡邊、見事再び痛快のロングヒットを中堅左翼間に放って猛三壘打を演ず。敵軍投捕スクヰーズを恐れて有馬をウエストせしも捕手前進し過ぎて有馬の振らんとする打棒に指を打たる。即ち打撃妨害なり、有馬一壘を得て二壘を盗む。打者は重成なり。
二振の後敢然見事なるバントを一壘側に匍はせば投手取って一壘に投ぜしに於勢ミスって重成を生かす。其の隙に二壘なる有馬も渡邊の後を追って長驅本壘に殺到してスライドせしも一瞬の差にて一壘よりの球に憤死す。五百井起つや重成二壘をスティールし更に三壘をも奪はんとして殺さる。我軍の得點茲に二點を數ふ。
敵軍奮慨して攻撃に移るや一死後敵軍唯一つの強打者梅田低き直球に二壘の右を抜けば球は坂となれる中堅右翼間を轉々として走り北澤、島田快足を飛ばして追へども及ばず、遂に本壘打となって歡聲敵陣に湧く。山口我もと憤打するも五百井再び騒がず好捕し岡本三振を喫して退く。
第五回。五百井天晴れ左中間に絶好の快打す左翼手よく走ってシングルに止めしも其の刹那足を挫きて戰線を退き、岡本其の後に入って補欠高井右翼を守る。野澤三壘に好打して五百井を二壘に封殺せしも再び二壘の盗奪に成功す。
續く北澤二壘後に飛球をかち上ぐれば運よく電線に當って落ち安打となりしも野澤進むこと能はず。島田二振の時捕手のパスドボールに兩騎三二壘に進んで島田の一打を待ちしに、島田のバント惜しくもファウルとなって二死、山脇さらばと起って遊撃に強打するも森此度は取って一壘に刺す。
一死後於勢二壘に匍球するや西村取りしも暴球を投じて二壘を奪はれ、續く吉國四球を利して敵軍頗る好況なりしも森の直球重成克く取って素速く西村に渡し焦れる於勢を并殺し去る。
第六回。二回の三振に憤起せし西村三壘に強ゴロを打ちしも破れず一壘に死せば、渡邊拍手に迎へられて出づ。敵捕手大呼して全軍に警戒す『今度はホームラン飛ぶぞ、しっかり守れ』と。渡邊莞爾と打てば、本壘打ならで逆戻りして中堅に絶好のシングルなり。さはれ扨ても物凄き當り日哉。
勢に乗って二壘を盗まんとせしも成らず、有馬Pゴロを打って無為。滑稽仁熊三振の後、谷澤中堅に當り好き安打すれば、梅田期待せられて起ち遊撃を衝く。重成取って谷澤を強殺せんとせしも機後れて、兩者一二壘に安全なり。敵軍勇み立ちしも山口に代れる高井三振に飜弄せられ、主将岡本の猛ゴロ西村よく掴んで危機去る。
第七回。戰は最終なり。尚もと奮起して重成四球を選んで出づるや、五百井の捕手飛球の後、野澤強襲三壘を失策せしめて續く。北澤衆望を負ひて起ち遊撃に匍球す。重成飛越えて三壘に走らんとする時その打球に觸れてアウトなる。
北澤は規則上安打を得たるなり。二死となりしも島田次いで右翼にシングルを戞飛ばして滿壘のチャンスを作り、而も打者に三番山脇を控へて敵軍を威嚇すること急なりしも、山脇一箇惜しきファウルを打ちしにみ、空しくバットを動かさずして三振に退く。
負くるは只一點、夫れ進めよやと敵軍最後の攻撃に移る。和田の當り損ねの打球野澤失して一壘に生くれば、於勢遊三間をゴロに抜きて續き絶好の好機に臨み最後の活躍を期す。されどバッテリー既に敵のバントプレーを觀破して敢へて焦らず、次打者吉國をウエストして三振に屠る。
未だ一死、森一番必死と粘りファウルを放つこと五箇、漸く第九球目に當つれば球は直球となって三壘に飛ぶ。
發止、山脇がグラブには音あり續いて發投、球は瞬間西村に及んで和田をも刺す。鮮かなるダブルプレーを最後に、明星軍遂に敗る。
二對一。吁我軍遂に勝てり。時正に四時卅五分。
此の日渡邊が投球日頃の生彩なかりしは遺憾なりしも其の強打は正に獰猛を極めて我軍の為め氣焔を吐くこと萬丈なり。四番迄のシングルヒッターの揃ひも揃って不得意の球に會ひて打撃不振なりしは當日苦戰の原因なり。重成、五百井共に攻守目覺しかりしは賞賞に値す。
元氣滿々たる左翼手木村が病魔に侵されて此の日出戰不能なりしは残念。好漢常に仕合運薄きは誠に惜しむべきことなり。
成績左の如し。
大正7年10月13日(日)御影師範 2時15分開始 4時35分閉戰 審判 陸井
神戸二中 010 100 0=2
明星商業 000 100 0=1
打安得三四刺捕失残
〔二中軍〕 撃全 死
數打點振球殺殺策壘
8 北 澤 420101002
9 島 田 410101011
5 山 脇 400101100
4 西 村 300205210
1 渡 邊 331000100
2 有 馬 101015110
6 重 成 100012301
7 五百井 310002000
3 野 澤 300004013
合計 26725221847
[明星軍〕
6 森 400102121
4 仁 熊 300105000
5 谷 澤 310001211
2 梅 田 311008211
7 山 口 200000000
97 岡 本 200110000
8 和 田 300001000
3 於 勢 210004112
1 吉 國 200210301
9 高 井 100100000
合計 25316221956
▲本壘打=梅田 ▲三壘打=渡邊 ▲二壘打=渡邊 ▲犠牲打=重成 ▲盗壘=有馬
2、野澤2、重成 ▲并殺=重成−西村。山脇−西村 ▲逸球=梅田 〈神戸又新日報〉
〔第6回扇港野球大会〕
大正7年10月17日(木)東遊園地 午後1時25分開始 3時30分閉戰
審判(球)山口 (壘)松岡
▽1回戦
神戸一中 100 000 0=1
神戸二中 001 001 X=2
〔二 中〕 〔一 中〕
5 山 脇 6 緒 方
4 西 村 7 佐々木
1 渡 邊 8 橋 本
8 北 澤 3 來 田
2 有 馬 5 吉 田
9 島 田 1 山 口
6 重 成 2 石 岡
7 木 村 4 藤 尾
3 野 澤 9 小 川
失犠死四三安打 失犠死四三安打
策打球球振打數 策打球球振打數
10032522 20047322
▲第一回 一中先攻、緒方劈頭左翼頭上を抜く三壘打を放ち佐々木四球に二壘を盗み橋本のファウルを左翼手好捕せしも其の間緒方生還して最初の一點を占む、來田一壘に直球を得られ吉田一壘匍球に止む
△二中山脇二越安打に出で來田の悪投に二壘に進む、西村四球、渡邊は中飛に死し北澤一匍に斃れ有馬中堅にライナーを送りて止む(一中一、二中零)
▲第二回 山口左翼直球に死し石岡ナットアウトに死し藤尾三振
△二中島田左飛、重成遊匍、木村遊匍に一中代り攻む(兩軍零)
▲第三回 一中小川二飛後緒方投匍失に生き二壘を盗み佐々木三振、橋本四球、緒方三壘を盗み來田四球を得て滿壘となる、絶好のチャンスなり然るに緒方捕手謀られて惜しくも止む
△二中野澤遊匍の後山脇又もや安打に出で二壘を盗み西村ファウルを捕手に得られ捕手のパスに山脇三壘に進みし時渡邊の痛快なる二壘打に同点となる、北澤四球に出でしも二壘に刺さる(一中零、二中一)
▲第四回 一中吉田一匍に山口右翼安打に石關一匍に死し、山口二壘に進みしも藤尾二飛に殪る
△二中有馬投匍、島田三振、重成三振(兩軍零)
▲第五回 一中小川三振、緒方、佐々木共に三匍に凡死
△二中木村投匍、野澤中飛に死し山脇の一打左翼頭上を抜きしと思はれしも左翼手のファインプレーに無為(兩軍零)
▲第六回 一中橋本遊撃を襲ひしも重成をして名を為さしめ來田又遊匍に退き吉田三振
△二中西村の三匍、渡邊遊飛、北澤左翼失に生きて二壘を盗み有馬四球に出でし時島田ヒットに北澤生還一點を勝ち越す、重成遊飛に死す(一中零、二中一)
▲第七回 一中山口三振、石關四球に出でしも二壘を盗んで死し藤尾三振遂に挽回の機無く二A對一にて一中の敗となれり。
〔概評〕當日絶好の取組として期待された丈けそれ丈け興味もあり緊張もした大白兵戰となった。そして兩軍共に克く攻め克く守ったと言へる、投手の投球が特徴の有るもので無い為めでもあるが、兩軍の打撃率も相當の成績を示した、一中の敗因は投手が二中渡邊のアンダスローに比し一中山口のオバースローが打者を悩ます事が尠なかった事と危機に臨んだ場合の不統一とが主なるものであった。
第三回に一中が二死滿壘の好機に臨みながらランナー橋本が捕手に謀られて本壘上に死屍を晒したのは五番打者をボックスに控える場合としては確かに輕擧であった、亦六回裏に二中が二死にして走者二人を出した時次の左利打者島田がインコーナーの直球をファウルし避易の氣分充分に見へて居るに拘らず山口投手は次に絶好のストライキを投げて三壘打を得られ當試合の致命傷を受けたのは全く投手及び捕手のヘッドウォークの足らなかった事を證明するものである。
〔評〕一中が1回先頭緒方の左翼頭上を抜く三壘打、佐々木四球のあと二盗、橋本の左邪飛で緒方生還、上々の滑り出し。しかし、2回以後二中・渡邊に手が出ずこの一點のみ。
二中は3回に渡邊の適時打で同點に追いつき6回に敵失で好機をつかみ島田の三壘打で決勝點を擧げた。
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