◎對神戸一中戰(六月十六日)
過ぎにし年の三戰三勝の榮を再び縦にせんと苦心惨憺必死的猛練習を積みたる我軍は此の日、本校々庭に於て復讐の意氣に燃ゆる一中軍と最も重大且意義ある試合を行へり。我八百の健兒一壘側に長蛇の陣を作れば彼も全校擧って三壘側に殺到凄じき應援の叫は武陽原を震撼させ、十八戰士の胸に波打たすや急なり。
戰機は熟しぬ。一中軍先づ水も漏さじと守備につけば我選手何れも長棍を引提げ眉を上げ、一中軍何かあらんと意氣軒昂たり。吁壮烈なる争覇戰の幕は切って落されぬ。
第一回、我先鋒新進山脇急霰の如き拍手の中に悠々ボックスに入りしも三振を喫し島田も同じく三振す。渡邊四球を利せしも三宅の遊撃ゴロに二壘に強殺さる。
○敵代って出でんとせしも、物集はピーゴロ、橋本は捕手の前に打落し全は遊撃飛球に。何れも岸本の快腕の為鮮かに退けらる。
第二回、岸本は一壘ゴロ、木村はピーゴロに死し西村三振す。
○久保田焦りて三壘飛球に死し、來田四球を利す。山口遊撃に打つ三宅取って二壘に來田を殺さんとせしに山脇失して、來田三壘に進み得山口二壘に到る。されど次打者出本とのサイン誤りより來田三本間に挟撃に後遂に木村に刺され出本ピーゴロに斃る。
次に恨み深き三回は來りぬ。
二死の後山脇巧に四球に出でし時島田憤然立って快打一番火を吐く熱球にて一二壘間を破り山脇素早く三壘を占め、島田も二壘に進む。次は強打者渡邊なり、我應援隊熱狂を極む。此時久保田、島田の壘を離るゝを見て牽制にまわれる橋本に投球す、アハヤと見る間に壘審はアウトを宣しぬ。
されど島田のスライド猛烈にして、橋本の球を落しゝを認めたれば、セイフを迫りしも遂に用ひられず、故に潔ぎよく敵に攻撃を譲る。(この際橋本、島田のスパイクの為指に負傷して退き木下代る)
○佐々木四球、物集左翼安打、木下又四球にて一死滿壘、實に我軍累卵の如き危きに似たれ共岸本奮闘全を中堅飛球に終らしめ二死となり、安堵の胸を撫下す所へ、久保田來り必死と打ち球は左翼の空を襲ひて三壘打となり續く來田は中堅直球に終りしも、一擧三點を獲て敵軍狂喜す。
オンリー三點ネバマインド、しばしばやつゝけとばかり攻め付けしも久保田三點を勝ちて大に落付きし故四回五回乗ずる能はず、我投手岸本も此上は大にしまれと渾身の精力を盡して力闘敵軍を片端しより弄殺し行く。近来稀に見る白熱的緊張戰の中戰は六回に入りぬ。我軍ファーストバッターよりなり。
打順よし、よし行けと山脇決然とボックスに入り苛って打ちしも中堅飛球となる。次に島田ワンモーアメイクヒットの聲に送られて立ち剛氣の直球を中堅の右に飛ばしゝも物集右に寄居りしかば惜くも掴まれ渡邊三振して空し。
○久保田再び躍って出しも、岸本よく之を三振に終らしめ、來田、山口、何れも木村の妙技に退けらる。
第七回、ラッキーセヴン此度こそはと三宅二壘ゴロに斃れしも岸本憤然として、物の見事に左翼にヒットす。木村されど中堅飛球に死す。二死なり、岸本は二壘の盗壘に成功す。西村苦心せしも遂に三振して又好機を逸せり。
○敵軍も亦岸本の怪腕に封じられて壘に出でず。
第八回、戰は終局に近し我軍振はざる可からず。山脇二死の後巧に中堅の前にテキサスして出で快足を利し二壘を盗み島田四球を得渡邊大なる期待の下に立ちヒットせんと焦りしも遂に三度振りて當らず。
○敵一番よりなり、奮はんとせしも物集中堅飛球、木下三振、全四球に出て大膽にも三壘迄殺到して生きしも、久保田のゴロ三宅鮮に取って一壘に之を補殺す。
第九回、最後なり、今や我は零、敵は三點なり。我應援最後の勇を掉て轟たる中三宅凄蒼の顔色に再び還らざる慨を以てボックスに立ち必死のスイングに見事三壘の左を抜き一壘に生く。觀聲天に轟て觀者手に汗を握る。
岸本、木村奮闘よく之を二壘に送りしも二死なり、打者西村零敗なりとも免れんと入念に選球する中敵捕手苛って逸球し三宅ホームに走り壘前にタッチされしも審判官はその生還を宣しぬ。素破こそ一點と鬨聲高く天に冲せ共敵軍よりパスドボールに非ずと抗議起り交渉の末ノーカウントとして三宅三壘に戻さる。
悲憤の涙を呑みしは獨り我戰士のみに非らざりき。西村遂に四球を得て二壘に進む。此の後を承けて立ちしは有馬なり、我等極力久保田をを上げんとす。天迄入れと打振りたる彼のバットは空しく流れて萬事休矣。
三對○、我は遂に斯くして敗れぬ、嗚呼。我旌旗惨として地に伏し、敵の凱歌のみ徒に風蕭々たる武陽原頭に潮の如く湧く。されど至誠を盡せば健兒の本懐は達す。八百の健兒戰終って校歌を高唱し、血涙を以て選手と共に來るべき第二回戰には必ず對敵一中を粉砕せん事を堅く堅く誓ひぬ。
大正6年6月16日(土)神戸二中 審判 (球)西(壘)松尾
神戸二中 000 000 000=0
神戸一中 003 000 00A=3
打得安犠盗三四補刺失
〔二中軍〕 撃 牲
數點打球壘振球殺殺策
B2 山 脇 3010111201
LF 島 田 3010011000
B1 渡 邊 30000310100
SS 三 宅 4010000220
P 岸 本 2012100200
B3 木 村 3001000320
RF 西 村 3000031000
C 有 馬 4000020170
CF 北 澤 3000020030
合計 28043212410241
〔一中軍〕
CF 物 集 4110010030
SS 橋 本 2100112111
SS 木 下
LF 全 3000201000
P 久保田 4010010300
B1 來 田 2000001080
B3 山 口 3000000100
B2 出 本 3000010620
RF 佐々木 2100021000
C 長 田 30000100120
合計 2632037511261
〈朝日新聞〉
【第3回全國野球選手権大会兵庫豫選】
大正6年8月4日(土)東遊園地 午後2時40分開戰 (審判)球審・柳田 壘審・西
▽1回戰
神戸二中 020 000 200=4
神戸商業 000 300 000=3
〔二 中〕 〔神 商〕
5 山 脇 6 竹 下
7 島 田 9 坪 井
3 渡 邊 7 生 田
2 三 宅 1 西 澤
6 岸 本 8 網 干(兄)
1 木 村 3 網 干(弟)
4 松 本 5 後 藤
9 田 中 2 大 西
8 北 澤 4 森 田
失三四安打 失三四安打
死 死
策振球打數 策振球打數
743432 696633
〔概評〕兩軍共技倆伯仲し唯投手に於て神商西澤の方少しく二中の木村、岸本に勝るの觀あり二中投手岸本明敏なる頭脳を缺き為に三回より五回まで十三人の打者に對し安打五本と四球三を出して商業に得點を與へ延いて大苦戰を為すに至れり木村は岸本に代り最後迄奮闘し能く商業の打撃を封じたる功績大なり外野は商業の方良好なり二中の左翼は其の守備方法に研究を要するものあり。
二日降雨の為に中止し三日も亦も雨に降られて延期となった第三回兵庫野球大會は四日午後一次戰の續行をした、當日朝の程は尚夜来の雨の名残を止めて雲足頗る急であったが午前九時頃に至って全く晴れ渡り前日の雨は蘇ったやうな緑の芝生に海風徐ろに渡って絶好の野球日和となったので午後三時試合開始の豫定であったにも拘ず観衆は早くも午前十一時頃から續々詰めかけ午後二時にはグラウンドの周囲悉く人を以て埋まる盛況を呈し神戸二中、神戸商業兩校の選手も亦二時頃前後して來場フリーバッチングにシートノックに鮮やかな處を見せて續いて兩軍の應援隊も長蛇の如き列を作って繰込み來り、商業は一壘側、二中は三壘側に陣を布いて互ひに喊聲を揚げるうちに雙方練習を終って、愈々午後二時四十分柳田(球)西(壘)兩氏の審判、二中の先攻で大會中屈指の大試合たる兩雄の血戰は始まった。
經過左の如し。
▲第一回 二中山脇の投手匍球に斃れし後、島田、渡邊續いて四球を利し三宅の遊撃匍球に渡邊二壘に詰殺されしも島田三壘に入り三宅亦二壘を盗んで好機に臨みしが、岸本三振を喫して止む△商業亦竹下二壘匍球に退きし後坪井四球に出で投手の壘球に二壘を得しが生田三壘に、西澤は左翼に飛球を揚げて得點するに至らず
(二中零、商業零)
▲第二回 二中の木村投手の右を抜く安打に出でゝ二壘を盗み松本の三壘遊撃間を抜く安打に生還し、松本は輕擧離壘して二壘に刺されしも田中(渡邊代走)死球に出でゝ二壘を盗み山脇の二壘安打に生還二點となり更に山脇は二三壘を連盗して本壘を覗ひしが島田二振後のバントを過りて代る
△商業網干兄弟の死後、後藤、大西續いて四球に出で盗壘と遊撃の失を得て三、二壘に據りしが森田中堅に飛球を呈して得を成さず(二中二點、商業零)
▲第三回 (此の回より二中投手木村、岸本と代る)二中三者凡打に終り△商業竹下初めて遊撃越の安打に出でしも盗壘に失敗して二壘に死し坪井の三振後生田、西澤四球に出で投手の凡失にて三二壘に進みしが網干(兄)三振して好機を逸す
(二中二點、商業零)
▲第四回 二中振はず△商業網干(弟)四球を利し後藤の遊撃匍球に詰殺されしも大西三壘越安打に出でゝ二一壘に據る時森田の一撃左翼邪球線側を抜く絶好の三壘打となりて後藤、大西生還忽ち同點となり更に竹下の一二壘間を抜く安打に森田も生還し一點の勝ち越しとなって商業方應援隊の狂呼絶頂に達す、次で坪井の三振後生田三壘の失に生きしも西澤の投手匍球に止む(二中二點、商業三點)
▲第五回 二中又もや三者凡打に退き此回より再び木村を投手として守りに就く△商業網干(兄)の安打ありしも後續三振と凡打に斃れて點を得ず
(二中二點、商業三點)
▲第六回 二中二死の後岸本二壘匍球の失に生きて二壘を盗みしも木村中堅に飛球を揚げて止む
△商業振はず(二中二點、商業三點)
▲第七回 二中二死の後北澤遊撃の失に生きて二壘を盗み山脇の三壘側を抜く安打を左翼又失して北澤生還、再び同點となり更に島田の右翼安打に山脇生還し形勢再轉して二中一點の勝ち越しとなり渡邊の三壘ファウルに止む△商業生田の三振後西澤の大飛球左翼を失せしめて一擧三壘を陥れ好機に臨みしが網干(兄)の三壘匍球に三本壘間に挟殺され網干も亦盗壘に失敗して機會を逸す(二中四點、商業三點)
▲第八回 二中三宅二壘の横に直球に抜く安打に出しが二壘の争奪に失敗し後軍亦振はず
△商業無為
▲第九回 二中平凡に終る△商業好打順を以て愈最後の攻撃に立つ森田投手匍球竹下亦投手直球に退きし後坪井(網干代走)三壘越の安打に出でしも生田二壘に匍球を出して大事去り四對三の接戰にて二中の勝ちに歸す。
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