大正5年(4陽会)1916年

NO3

《武 陽》
◎對關西學院中学部戰
 前日鳳鳴義塾と戰ひて大勝したる我軍は、五日午後二時十分より、神戸一中を零敗せしめたる關西學院中学部と干戈を交ふ。
 此の一戰は本縣野球大會の準優勝戰なれば観衆は數萬人にして、我軍には全生徒の應援ありて其規律ある應援は本大會の花とも稱すべし。

 第一戰、敵軍先攻し菅井二壘飛球に死し、四本四球に出でしも加藤三振し近藤右翼に飛球を打ちて止む。我軍代り攻め一死後睦好死球に一壘に得しも今村、兒島三振して残壘。

 第二戰、生駒二壘グラウンダーに生きしも粟田の投手を襲ひし為に二壘に刺され島村、石原凡死す。岸本一壘に打ちて成らず三宅二壘を過まらせ續く藤原一壘の失に生きて三宅を三壘に送りしも、二壘に暴進して刺され北澤三振して三宅残壘。

 第三戰、内海遊撃の失に生き續く菅井左翼越の三壘打を飛ばせしも内海のランニング遅く為に本壘に刺さる。四本捕手の前に飛球を打ちて生き加藤遊撃にバントして菅井生還し、續く近藤三壘バントし三壘よりの投球を捕手逸して四本、加藤本壘に入る。

 生駒左翼に安全球を打ちて近藤三壘に進む。近藤、粟田と相呼應してヒットエンドランを行はんとせしもそのサインを過まり挟殺され粟田三振して我軍代る。松尾二壘にグラウンダーを呈して斃れ、箸倉遊撃に熱球を送りて生き直ちに二壘を盗みしも後援續かず。

 第四戰、島村三振し石原遊撃を襲ひて死し、内海左翼に直球を呈して生きしも二壘を盗まんとして睦好の好球に遇ひて死す。今村、岸本三振の後三宅内野に安打し藤原の二壘グラウンダーに三壘に進み、續く北澤三壘を強襲して三宅本壘を陥る。松尾投手グラウンダーに死して藤原、北澤残壘。

 第五戰、菅井三振して四本、加藤凡打す。我軍奮起し箸倉三壘遊撃間を抜く安打に出で、一死の後兒島三壘を過らし今村二壘越の安打を飛ばして滿壘となる。岸本二壘の失に生きて箸倉本壘に入る。三宅二壘を衝いて兒島牙城に入りしも岸本二壘に刺され藤原二壘飛球に止む。

 第六戰、近藤、生駒二壘及三壘を襲ひて死し粟田三振す。我軍一死の後松尾中堅に安打を飛ばして出でしも箸倉は三壘を睦好は投手を衝きて成らず。

 第七戰、兩軍の應援熱烈にして試合は白熱的大接戰となる。島村左翼に安打し石原の犠牲球に二壘に進み内海、菅井相次で三壘及遊撃の失に生きて滿壘となる。續く四本のバントを睦好素早く取りて島村を本壘に刺し加藤二壘を襲ひて死し三者残壘。
 一死後今村再び右翼に安打せしも岸本遊撃直球に斃れ今村又離壘せしかばダブルプレーを演ぜらる。

 第八戰、近藤、生駒凡打し粟田三振。我軍代り攻め、二死の後北澤中堅に安打し續く松尾、箸倉共に四球に出でゝ滿壘の好機に遭遇せしも天我に幸せず睦好三振して空し。

 第九回、此回に於て特筆すべき今迄壓せられ氣味たる敵軍が安全球、バント、失策に乗じて一擧六點を占めしにあり。先づ島村三壘グラウンダーに死せし後石原左翼に安打し内海二壘に打ち生き續く菅井中堅に安全球を戞飛せば兒島前進しつゝ之を捕へんとして逸球し三壘打となり石原、内海生還す。

 此の時の兒島の態度は輕卒にして殊にシングルにて捕へんとしたるは絶對に不可なり。四本、加藤投手遊撃を衝きて生き滿壘の時敵の主将近藤左翼の右に二壘打を飛ばし菅井、四本生還。生駒右翼に安打し加藤、近藤牙城に入る。
 粟田三振し生駒二壘を盗まんとして刺さる。兒島四球に出でしも、今村の三壘グラウンダーに二壘に刺され、岸本一壘飛球に死し三宅三振して残壘。時に午後五時。

▽準決勝
  關學中 003 000 006=9
 神戸二中 000 120 000=3


       得打安三四補刺
〔二中軍〕   撃全 死殺殺
       點數球振球數數
 4 箸 倉 1410154
 2 睦 好 04010311
 8 兒 島 1401101
 1 今 村 0522090
 5 岸 本 0501021
 6 三 宅 1511021
 7 藤 原 0400011
 9 北 澤 0411001
 3 松 尾 0310107
   合計  3386732227

 〔關西軍〕
 2 菅 井 2521016
 3 四 本 24001011
 6 加 藤 2501013
 7 近 藤 1510001
 9 生 駒 0520000
 8 粟 田 0504000
 5 島 村 0411022
 4 石 原 1311023
 1 内 海 14000130
    合計 9 40 7 8 1 19 26

《武 陽》
◎對縣立神戸商業
(YM生稿)
 九月十八日、近來長足の進歩をなし其の今春に於けるティームと全く異なる感あらしむ縣立商業野球部は諸所に強敵に對戰し其の破竹の勢を以て一擧我を屠らんと挑戰し來りぬ。何ぞ恐れんや我の前に立つ者は何ぞ容赦する所あらんや。
 直ちに快諾し敵を根本的に潰走せしめんと九勇士の腕は鳴り血湧き肉躍り行く路路も勇ましく縣立商業へ出征しぬ。いでや戰士が奮闘の跡を記さん。

 第一回、商業先攻、劈頭ボックスに現はれたるは彼方の老将瀧川と覺えたり。劈頭の功名をなさんと物々しかりしも何ぞ彼如きに我が堅壘を抜かれんや直ちに三振に屠り續く坪井を又三振せしめ生田四球を得て出で大谷フライを揚げ味方の投捕手互に遠慮して之を失せしも網干難なく弄ばれて我軍攻撃に移るや箸倉劈頭ボックスに立ち彼方の壁を望みてありけるが敵投手の投げ出す球を今しも長棍一振すれば戞然として音あり球は高く遠く飛びて恰も燕の飛ぶそれの如く熱球は左翼の壁を越えて電車道に打ち出されたり。

 外野手もそのなす所を知らず敵味方の歓呼の裡に悠々として生還し、かくして光榮ある最初の一點は得られたり。續く睦好火を吐く如き熱球を遊撃に見舞ひしも彼よく守り今村二壘安打に出で次ぎて壘手の失に三壘に據りしも兒島右翼にフライを呈し岸本四球に出でしも楯谷中堅に大フライを得られてランを得るに到らず。

 第二回、西澤四球を利して出でしも永田、後藤枕を並べて本壘に憤死し竹下の二壘匍球に無為。我軍渡邊二壘を衝いて成らず、北澤遊撃ゴロに斃れ三宅左翼にフライを呈して名をなさしむ。

 第三回、敵は第一打者に廻り瀧川出で中堅に安打せしを中堅手後逸し瀧川一擧三壘に迫り坪井の犠牲球に瀧川生還し生田三壘を襲ひて殪れ大谷右翼に安打と見えしも北澤よく守りて一壘に刺したるは上出来なりき我軍箸倉三壘を抜く安打に出でしも睦好ファウルフライを捕手に獲られ今村ライナーを右翼手に得られ兒島三振して無為。

 第四回、網干四球に一壘を得しも西澤三振し永田又四球の恩典に浴したるも後援續かず後藤、竹下共に三振を喫して無為、我軍攻撃す。岸本投手ゴロに退き楯谷又左翼へフライを呈し渡邊遊撃を衝きて尚ランを得るに到らず。

 第五回、瀧川一壘手にゴロを得られて斃れ坪井再び三振し生田遊撃を猛撃して其失に生きしも後援續かず次なる大谷三振を喫してランを得るに到らず。
 我軍攻撃にに出づるや北澤死球に出で、三宅中堅に安打し續く箸倉四球を利して滿壘となりしも睦好インフィルダーフライに倒れ北澤三壘に刺されて二死となりしも今村右翼、中堅間に二壘打して三宅、箸倉二騎轡を並べて牙城に入り續く兒島の中堅安打に脱兎の如く本壘に辷り込み兒島亦三壘手が捕手より投じたる牽制球を失する隙に生還、
更に一點を加へ尚試合を續行せんとせしも日漸く暗く為に五回ゲームにて一對五プラスアルファーにて我軍の勝に帰し、五時夕日を負ひて凱歌の裡に引き揚げぬ。

大正5年9月18日(月)県立神戸商業
 縣神戸商 001 00=1
 神戸二中 100 04=5

( 日没のため5回コールドゲーム)

       打安三四犠得
 〔神商軍〕 撃  死牲 
       數打振球球點
 3 瀧 川 311001
 9 坪 井 202010
 7 生 田 200100
 6 大 谷 301000
 8 網 干 101100
 1 西 澤 101100
 2 永 田 101100
 5 後 藤 202000
 4 竹 下 201000
   合計  17110411

〔二中軍〕
 4 箸 倉 220102
 2 睦 好 300000
 5 今 村 320001
 1 兒 島 311001
 8 岸 本 100100
 7 楯 谷 200000
 3 渡 邊 200000
 9 北 澤 100100
 6 三 宅 210001
    合計 1961305

《武 陽》
◎對クリケット倶楽部野球戰記

 九月二十六日。朝來風なく空晴れ渡りて絶好の野球日和なり。我が九勇士は神戸唯一の外人倶楽部に挑戰して午後四時三十分東遊園地に見えぬ。本日一、二レギュラーの缺くるありて補缺選手を補充して戰ふ。

 第一回、我軍先攻、先づ岸本四球を得て本日第一打者の責任を全うし直ちに二壘を奪ひ楯谷の三壘手を失せしむるに及び岸本三壘に進み楯谷又二壘に進むや今村ボックスに立ちて二壘越の安打を放ち二騎生還し今村二壘に據る續く兒島四球を得北澤の遊撃強襲に今村三壘にフォースアウトされ渡邊の犠牲打に兒島二壘を得しも山脇二壘匍球に止み敵代り攻む。
 先鋒C・エリオン遊撃を誤らせて一壘に生きしもスレード三振しF・エリオン二壘に犠牲打せしもJ・B・クレイン、ファウルフライを捕手に獲られて止む。

 第二回、島田、三宅共に二壘匍球に殪れ岸本二壘越の安打を飛して出でしも楯谷のPゴロに得點をなすに到らず。クリステンセン三振を喫しR・G・クレイン二壘手のエラーに出でしも續くプラント、クロスレー共に本壘に枕を並べ我軍代り攻む。

 第三回、今村、兒島共に投手ゴロに北澤を三壘を破らんとせしも効なく敵攻撃に移るやチース三振に屠られしもC・エリオン三壘越のセーフヒットに出でスレードの打ちし匍球を一壘手の失せし間に二壘に進み、三壘をスティールせんとするや味方の捕手之を刺さんとして投ぜしも高きに失しC・エリオン本壘に驀進して一點を回復せしも續くF・エリオン、J・B・クレイン三振して交代す。

 第四回、渡邊二壘手のエラーに生きしも離壘して挟殺され山脇、島田共にPゴロに退く。敵クリステンセン奮起して三壘を攻撃せしも抜く能はずR・G・ラレイン二壘に凡打して斃れプラント三振に屠られて終わる。

 第五回、我軍奮闘の甲斐なく兒島投手ゴロに北澤二壘フライに渡邊二壘グラウンダーに止み、敵軍二死の後C・エリオン右翼手の失に一擧二壘へ進みスレードの右翼三壘打にエリオン生還しF・エリオン、ナットアウトにて一壘手のエラーに生きスレード生還しJ・B・クレーン中堅飛球に終る。

 第六回、兒島投手ゴロに退き北澤二壘手にフライを獲られ渡邊二壘ゴロに倒れて止む。時既に暮色周圍を蔽ひゲーム續行不可能となり為に二對三のドロンゲームにて我軍の敗に帰せしは實に遺憾なり。左に勇士の成績を記さん。

大正5年9月26日(火)東遊園地
   神戸二中 200 000=2
 クリケット倶 001 02 =3

 (6回表二死ドロンゲーム)

        打盗犠安三四得
 〔ク 軍〕  撃 牲    
        數壘球打振球點
 C・Ailion   3301002
 G・Slade    3001101
 F・Ailion   2010200
 J・B・Crane   3000100
 S・Christensen 2000100
 R・G・Crane   2100000
 H・Prunt    2000200
 J・Crossley  2000200
 A・Chiece   2000200
   合計   214121103

 〔二中軍〕
 5 岸 本  2201011
 7 楯 谷  3100001
 1 今 村  3101000
 8 兒 島  2000010
 2 北 澤  3000000
 3 渡 邊  2010000
 4 山 脇  2000000
 9 島 田  2000000
 6 三 宅  2000000
   合計   21412022