大正元年(1陽会)1912年

NO1

《武 陽》
[校内奮闘史]
◇第五回野球大會記事◇
(森崎稿)
 秋漸く老いんとするの日部員の等しく待ちに待ちし大會は開かれぬ。回を重ねること之に五回なりと雖、五年級より一年級まで全校揃ひしは今回を以て嚆矢となす。四尺に滿たざる一年生より六尺に垂んとする五年生に至るまで連日に亘る熱心なる練習の結果は表はれて此大會となれり。左に記録を記さむ。
 

第一日11月2日放課後)

〔第一回一年級混合〕
  紅軍
20−0白軍 三回ゲーム

〔第二回一年混合〕
  紅軍5−3白軍 三回ゲーム

〔第三回職員對二年級選手〕
  職員
10−8二年 三回ゲーム 

第二日11月3日、日曜日)
 是舊天長節なり。明治天皇既に崩じ給ひて大正の世となりて、今更に思出で多き日となれり。此日午前八時より校長及龜井先生の講話あり。終れば十時、直ちに昨日の續きを行ふ。

〔第四回一年級混合〕
  紅軍6−6白軍 三回ゲーム

〔第五回一年級混合〕
  紅軍6−5白軍 三回ゲーム

〔第六回一年級混合〕
  白軍9−4紅軍 三回ゲーム

〔第七回一年級混合〕
  白軍4−1紅軍 三回ゲーム

〔第八回二、三、四年級混合〕
  紅軍5A−3白軍 三回ゲーム

〔第九回一年級混合〕
  紅軍3−3白軍 三回ゲーム

〔第十回五年級混合〕
  紅軍6A−0白軍 六回ゲーム

〔第十一回三、四年混合〕
  紅軍2−2白軍 三回ゲーム

〔第十二回〕
  白軍8−0紅軍 三回ゲーム

〔第十三回一年級混合〕
  白軍5−3紅軍 二回ゲーム

〔第十四回二年級混合〕
  紅軍2−1白軍 三回ゲーム

〔第十五回三年級對一年級選手〕
 本年四月新に我野球部に入りし一年級選手は七箇月間武陽原にて鍛へし腕を以て三年級選手と槍杆を交へんとす。熱望せし校友或は一年に或は三年に應援して彌次の聲武陽原に響き渡りぬ。

 第一戰、一年方失策續出し、三年をして三點を収めしめしも後よく守り、三年も為す所なし。

 第二、三戰は平々凡々たりしが、第四戰に至りて一年奮起し、一擧三點を得しは、觀者をして其練習の程を思はしめたり。

 第五戰に於て小野微傷し朝倉と代る。

 第六戰に於て一年方大に奮ひ、坪田生還して四點となり、三年方をして色を失はしめたるは痛快なり。進みて第七戰に入るや三年奮然立ち一擧三點を奪ふ。一年代りて大いに為すあらんとせしに不幸にして時間既に到りたれば遂に四對六を以て一年の敗に歸せり。 

 三年級 300 000 3=6
 一年級 000 301 0=4
 

        打安犠三四得
〔三 年〕   撃全牲 死
        數打球振球點
 UB 田 中 410001
  C 吉 田 310012
 VB 今 井 410001
  P 丹 波 410001
 RF 森 本 300111
 CF 榎 本 300110
 LF 足 立 400200
 TB 久 米 400100
 SS 山 西 300000
  合 計 
  3240536

〔一 年〕
 LF 森 本 310000
 SS 村 田 200110
 RF 小 野 300101
  P 箸 倉 310001
 VB 坪 田 300002
 UB 上 林 300100
 CF 睦 好 300120
  C 今 村 100100
 TB 柴 田 210100
  合 計   
2330634

〔第十六回 四年級選手對五年級選手〕
 是最終の仕合にして、最も華々しき仕合なり。我野球部の中堅を以て自ら任ぜる四年級と、元老とも言ひつべき五年級の仕合振如何と、校友皆片唾を飲みて、是を待てる時一聲高きプレーの聲は武陽原に響きぬ。

 第一戰、四年先攻、高瀬、天野相次で倒れ、岡本四球を利して二壘に進みしも、松本凡打して巳む。五年代り攻む。吉川四年の失に乗じて生還して意氣大いに上りしも、菅、藤野、角徒らに四年に名をなさしむ。

 第二戰、山崎熱球を二壘に呈し一擧して二壘に進む、宮岡遊撃の失にて一壘を得、山崎敵の周章せるに乗じて長躯本壘に入る。吉田三振、宮岡巧みに三壘を得しが、森崎の犠牲球にて本壘に入る。森崎一壘に生きしも、二壘の露と化し、神田倒れ、五年代る、前川遊撃を襲ひしも成らず。茨木四球に出でしも續く友成三振し、藤本亦遊撃に名をなさしめしのみ。

 第三戰、四年為す所無く、五年代りて、田寺、吉川共に殪れしが、菅四年の失策續出せるに乗るじて本壘を踏む。藤野三振。

 第四戰、兩軍無為。

 第五戰、四年凡打、五年代りて田寺の生還あり。

 第六戰、四年岡本生還、再び同點となる。五年無為。

 第七戰、第八戰、第九戰、兩軍凡打相次ぎ徒らに敵をして名をなさしむるのみ。

 進みて、第十戰となる。四年二死の後、岡本三壘に在り、衆望を負ひてボックスに立てるは松本なり。投手菅滿身の力を篭めて投ずる球を松本長棍一振、球は遊撃の左上方を過ぎ、絶好のヒットなりしに前川遊撃の後に在りて思ひ設けざる方より出でゝ之を捕る。觀衆呆然たり。五年代る。吉川遊撃を衝いて一壘を得盗壘巧みに三壘に進む。

 菅遊撃に熱球を送る。宮岡之を取りて何思ひけん一壘に投ず。然かも其球正確ならざりし為吉川は牙城に入り、菅亦二壘を得。次いで菅捕手の失にて三壘に進みしも藤野凡死し、角尾三振して巳む。是に於て月桂冠は遂に五年級の手に帰せり。

 四年級 020 001 000 0=3
 五年級 101 010 000 1=4
 

     打安犠三四得
〔五 年〕撃全牲 死
     數球球振球點
 吉 川 400012
  菅  401001
 藤 野 500100
 角 尾 500300
 前 川 300010
 茨 木 300110
 友 成 300110
 藤 本 400200
 田 寺 200021
  合計 
3301864

〔四 年〕
 高 瀬 400210
 天 野 500100
 岡 本 420011
 松 本 500000
 山 崎 310011
 宮 岡 400001
 吉 田 400100
 森 崎 301000
 神 田 400100
  合計 
3631533

 時に五時を過ぐる十分、斜陽神撫山の彼方に没し去り、茜根の雲の上に理想の星高く輝きぬ。今年は諒闇中なれば部歌も歌はず、静肅の裏に散會しぬ。